いまやツイッターのフォロワー数29万人。世界陸上のメダリストで、ベストセラー『諦める力』の著者、為末大さんが、世界の問題から身近な問題まで、「納得できない!」「許せない!」「諦められない!」問題に答えます。(お悩みの募集は締め切りました)。
お悩みファイル4■内定を辞退した会社に未練がある
今年から社会人1年生となり、A社で働いています。けれども内定を辞退してしまったB社のことが忘れられず、後悔しています。B社は業務内容が面白そうで、しかも事業内容職種別採用だったので確実にやりたい仕事ができたと思います。おまけに家から近く、残業も少ないという好条件でしたが、知名度と会社の規模でA社を選んでしまいました。なぜあのとき自分の本当の気持ちに従わなかったのかといまだに考えてしまいます。どうすれば過去を忘れて前向きになれるでしょうか。(男性・技術職・23歳)

選ばなかったことに対する後悔というのはありますよね。それをこじらせると僕が「もったいない病」と呼んでいる状態になります。「逃した魚は大きい」といいますが、「あのときあっちの方を選んでおけばよかった、もったいないことをした」という心理状態です。この病気の症状は「選ばなかったほうを惜しんで、いつまでも思い続ける」ことです。誰でも大きな決断をするときは迷いがあるものですが、その迷いを吹っ切るには自分の選んだ道が正しかったんだと納得できるように努力していくしかありません。

もったいない病は人を不幸に陥れることもある怖い病気です。「選ばなかった方」をいつまでも思い続けていると、現状に満足できないばかりか、その後の決断にも自信がもてなくなります。その状態ではたとえ傍から見てどれほど恵まれた状況になっても幸せを感じられなくなります。結婚も大きな決断のひとつですが、いつまでも「あのとき〇〇さんと結婚していたら……」悔やみ続けている人は幸せな結婚生活を送ることはできないでしょう。

「選ばなかった未来」はすでに選択肢ではなく、妄想でしかありません。その妄想にいつまでも固執するのは目の前にある現実から逃避しているのと同じです。B社での人生をシミュレーションし続けていると、いつのまにかA社に就職したことから得られる幸せすら感じられなくなるでしょう(すでにそういう状態なのかもしれません)。

まずは、いまのA社でできることをめいっぱい頑張ってみてください。あなたがB社を選ばなかったことは失敗ではなく、現実です。もうひとつの現実は、あなたはいまA社の社員だということです。そこで与えられた仕事に全力を尽くしましょう。それではじめて見えてくることもあります。A社の魅力やよさを紙に書き出してみるのもよいかもしれません。B社への思いがつのるあまり、A社の本来のよさに気づけないでいる可能性もありますから。

スポーツ心理学では、「自分でコントロールできないことを考え続けることは、無駄でしかない」と考えます。自分でコントロールできることすら疎かになると確実に結果が出なくなります。回答を考えながら、僕がつくづく感じたのは、「可能性があることの不幸」です。可能性があるから人は迷い、苦しみます。「可能性の海」に放り出された瞬間に、自分なりの行動の指針や基準がよほど明確でないと、溺れてしまう。

ロンドンで活躍した元金融マンの水野弘道さんという人がいます。現在、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)の最高投資責任者なのですが、彼からこんな話を聞いたことがあります。金融の世界では、想定外のことが起きた場合、「あのときの情報ではこれがベストの選択だった」とよく言うそうです。つまり、リアルタイムの情報に基づいて選んだことについてあとからあれこれ言っても仕方ないということです。そのときにはなかった情報や条件の下で決断の良し悪しを評価するのは「後出しジャンケン」でしかありません。後悔というのは自分に対する後だしジャンケンです。

この方はいま悩んでおられますが、頭の柔らかな若いうちに、すごくいい学習をしたと思います。「自分の本心に従わないと、後悔するんだ」という学びは、あとから振り返れば、きっと人生の財産になるはずです。

為末 大(ためすえ・だい)
1978年広島県生まれ。陸上トラック種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2014年10月現在)。2001年エドモントン世界選手権および2005年ヘルシンキ世界選手権において、男子400メートルハードルで銅メダル。シドニー、アテネ、北京と3度のオリンピックに出場。2003年、プロに転向。2012年、25年間の現役生活から引退。現在は、一般社団法人アスリート・ソサエティ(2010年設立)、為末大学(2012年開講)、Xiborg(2014年設立)などを通じ、スポーツ、社会、教育、研究に関する活動を幅広く行っている。
http://tamesue.jp
(撮影=鈴木愛子)
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