安倍政権のアジェンダは多すぎる

政治の世界には「一内閣一仕事」という言葉がある。1つの内閣がやり遂げられる仕事はせいぜい1つ、という意味だ。佐藤内閣の「沖縄返還」、田中内閣の「日中国交正常化」、中曽根内閣なら「国鉄分割民営化」、竹下内閣は「消費税創設」、小泉内閣でいえば「郵政民営化」といった具合。

その伝で言えば、安倍政権のアジェンダは1つの内閣としては多すぎる。20年続いたデフレを反転させただけでも拍手喝采なのに、消費税増税、集団的自衛権行使容認と安保法制、大詰めを迎えているTPP交渉、拉致問題の解決、ロシアとの領土交渉、いずれも大仕事である。安倍首相が本当にやりたいことは何かといえば憲法改正であり、そのために第1次安倍政権で国民投票法を通し、昨年5月には投票権年齢を「18歳以上」に引き下げる国民投票法改正案を成立させた。第1次政権、第2次政権、第3次政権を通じて国民投票法を制定して憲法改正の道を開き、さらには選挙権年齢も18歳に引き下げる道筋も示したのだから、それだけでも一内閣の功績としては十分評価できる。

とはいえ、本丸はあくまで憲法改正。もし安倍首相が内政も外交もさておいて「憲法を改正して戦後レジームを脱却しなければ、この国のエンジンは再起動できない」と自らのアジェンダにひたすらこだわっていたら、あるいは機運が高まってチャンスがめぐってきていたかもしれない。

しかし、安倍首相は国民の支持を得てから憲法改正に持ち込む手順を選んだ。国民の支持を得る近道はデフレ脱却であり、景気回復であり、持続的な経済成長ということで、アベノミクスの3本の矢(大胆な金融政策、機動的な財政政策、民間投資を喚起する成長戦略)が放たれたわけだ。