トップの日程が1分ずれるだけで現場の士気は低下する

小泉純一郎総理の日程をどう組むか。それが首席総理秘書官であった私の重要な役割でした。小泉官邸のスタッフは合計10人。私のほかは中央省庁から派遣されてきた4人の事務秘書官と5人の参事官で、彼らの後ろには霞が関3万人の官僚が指示を待っています。

<strong>飯島勲</strong>●1945年、長野県辰野町に生まれる。小泉純一郎元首席総理秘書官。現在、松本歯科大学特任教授・駒沢女子大学客員教授。国民的行事やライバル企業の動向を見極めずに、自分たちの都合だけで日程を決めることに警鐘を鳴らす。
飯島勲●1945年、長野県辰野町に生まれる。小泉純一郎元首席総理秘書官。現在、松本歯科大学特任教授・駒沢女子大学客員教授。国民的行事やライバル企業の動向を見極めずに、自分たちの都合だけで日程を決めることに警鐘を鳴らす。

日程づくりのため、私は自分のデスクの上にB4判の日程表を置き、10人共通の公開型にしました。

ただし、道具は必ず鉛筆です。すぐに消したり書き換えたりするためです。政治は生き物ですから、1カ月先、3カ月先の予定はどんどん変化します。ボールペンで書き込んでから線を消したり訂正するより、鉛筆と消しゴムのほうが便利です。いまや鉛筆は時代遅れの道具かもしれませんが、小泉官邸では、非常に重要な道具でした。

各事務秘書官や参事官は、この日程表に勝手に自分の担当分野の予定や出身省庁の行事希望等を書き込んでいき、さらに宮内庁関連や野党の党大会日程なども加えます。時には、20件近い書き込みが重なる日も出てきます。

こうして書き込まれた予定を私が重要度や先着順を考慮して整理し、最終決定します。翌月の日程、翌週の日程という形で確定していくのです。決定版としてボールペンで書くのは翌週の日程だけ。それを記したペーパーを、長期用の日程表に添付しておくのです。

総理日程の情報を共有する。機密事項であればおぼろげな概要だけでも十分です。このことで私がめざしたのは、10人の秘書官・参事官を通して霞が関全体が迅速に機能することでした。秘書官・参事官たちは自分の担当分野だけでなく、官邸の予定の全体像がかなり先のほうまで見えることで、各人がチームの一員として機動的に動くことができました。