「工事中断・協議」期間1カ月の理由
【塩田】安倍内閣は今国会で集団的自衛権の行使容認に伴う安全保障関連法案の成立を目指していますが、特に7月に衆議院で法案を可決した前後から、批判が高まり、内閣支持率も急落しました。逆風が強くなってきたので、危機感を抱いた安倍政権が、沖縄の基地移設問題でも工事中断に踏み切る決断をしたのでは、と見る人もいます。
【下地】3月からやっている話です。安保法案とは直接、関係はありません。むしろ安保法案の問題が出てきたので、「工事中断・協議」という話が流れるのではないかと思いましたが、首相官邸はちゃんと約束を守りました。
一方で、「1カ月の中断なんて、工事を強行するつもりの政府側のパフォーマンス」とか、「裁判闘争も辞さずという構えの翁長知事が、裁判では負けそうだから、妥協したのでは」といった声もあります。両方に対してネガティブな見方がありますが、それを乗り越えて何かを生み出そうということで、稀に見る政治決断ですよ。
【塩田】「工事中断・協議」に漕ぎ着けるのに、一番高い壁は何だったのですか。
【下地】出口戦略が簡単に見つからないことです。普通は出口を予想しながら進めるのですが、この会談は出口が見えません。
【塩田】「工事中断・協議」の期間を1カ月とした理由は。
【下地】19年間の積み上げの中で、もう決断すべきところまできています。2カ月とか3カ月にしたら何か展望が開けるかというと、そんなことはないと思います。集中的にやれば、決裂する場合も10日、何か変わることになる場合も10日で終わります。ですが、実際はそう簡単ではない。1カ月という時間を目いっぱい使わないと解決できません。
【塩田】1カ月間の協議で、具体的にどんな話し合いを行うことになりますか。
【下地】協議は5回やります。1回目は、沖縄の基地の存在意義などについて、お互いに認識を話し合いました。翁長知事は「日米安保体制は沖縄だけで背負うものですか」と言い、政府側は「現在の沖縄のプレゼンスを維持したい」と主張しました。2回目は、閣僚も入れた会議を開きました。3回目は、双方が妥協的な考え方を持って臨むかどうかが一番大きなポイントになります。ここで協議の行方が見えてくるかなという感じです。
うまくいけば、4回目で戦略的な話に入り、戦略上、アメリカ側が呑めるかどうかを打診する。アメリカ側の返事が届いた上で、5回目の話をする。だけど、場合によってはもう1回延長というシナリオで動いています。表の協議が5回だとすると、裏で15回くらいの交渉があり、どう話を詰めるのか、そこでやっていると思います。
【塩田】協議の行方をどう展望していますか。
【下地】翁長知事は「辺野古阻止」を唱え続けていますが、沖縄から米軍基地を全部出したいのか、普天間の基地を県外に出したいのか、辺野古さえ止めればいいのか、頭の中の構図がまだわかりません。翁長さんのバックに共産党や社民党がいます。社民党は沖縄から基地を全部出せという主張ですが、これでは話になりません。翁長さんの考えはどっちなのか、1カ月間の協議でそれをまず示して、次のステップに入っていく。そういうふうに、結果を生み出しながら会談を積み上げ、結論を出すということになると思います。