リーダーは「内なる旅」と「外への旅」に出よう

【ハーバードビジネススクール教授 竹内弘高(司会・ナビゲーター)】テクノロジーの進化とグローバル化の中でレジリエンスを高めていくことが重要だという(リンダ)グラットンさんの指摘です。柳井(正)さんはグローバル化に向けてレジリエンスを高めるには何が必要だと思いますか。

【ファーストリテイリング会長兼社長 柳井 正】グローバル市場を相手にしようとすると、10年後には当社の幹部の3分の2ぐらいは海外に行っているでしょう。そういう覚悟を持って働いてほしい。外国人の幹部はまだあまりいませんが、10年後には本社の3分の2ぐらいが外国人で占めているでしょう。おそらくは確実にそうなるのだから、社員にはまず考える前に海外に行って仕事をしろと言っています。日本人のだめなところは前もって準備しようとするところですね。初めは失敗するかもしれないけれども、試行錯誤してこそ現場感覚や異文化を身につけられるのです。それを個人として身につけることが一番大事だと思います。

とくに僕が重視しているのは、社員に世界の現実を知ってもらうことです。日々の業務において、目の前のことしか見えていない人が多いように思います。見えない世界に対する好奇心を持つこと、社会性や感情的なものをもっと大事にしないといけない。

【竹内】ピーター・ドラッカーも将来は予測できないが、将来はつくれるんだと言っています。将来をつくるにあたってどのようなリーダーシップが求められていると思いますか。

【ロンドン・ビジネススクール教授 リンダ・グラットン】未来のリーダーは複雑化した世界の中でリーダーシップを発揮しなければなりません。しかし、矛盾も当然発生します。たとえばローカルな存在でありつつもグローバル化していく企業の姿も矛盾の1つです。そこで矛盾する世界を克服するためにリーダーは「内なる旅」と自分の殻を破って未知と出合う「外への旅」に出なければいけないと考えています。内なる旅は内省すること。自分自身は何者なのか、自分の価値観は何なのか、あるいは自分は何を大切にしているのかについて深く考え、声に出して表現することが必要です。内省の結果、今までと違うやり方をしなければいけないことを認めるには勇気が必要です。しかし、すばらしいリーダーになるための条件だと思います。

外への旅とは柳井さんも指摘されたように世界について知ることです。世界を知るには、いろんな国を見たり、仕組みを学ぶだけではなく、自分と違う何かを受け入れることです。つまり、世界の一員になる必要があるのです。内なる旅と外への旅を通じて自分なりの世界観を形成することがリーダーには必要なのです。