たとえば、パトリス・ルコント監督の長編デビュー作『タンデム』。これは僕自身、20歳の頃に見て、すごく影響を受けた作品です。

初老のコメディアンと若い録音技師が、ラジオのクイズ番組を公開収録しながら、フランス中を旅してまわるんですが、主人公のコメディアンはもう落ち目で、あるときスポンサーが降りて番組が打ち切りになっちゃうんですよ。でも、若い技師はそのことを伝えられなくて、ニセの収録を仕立てて、旅を続けるんです。切なくも心温まるヒューマン・コメディーです。男同士の友情の話でもあるので、これを息子と見たら、どんな感覚になるのか、ちょっと楽しみですね。

子供に見せるということでは、『フィールド・オブ・ドリームス』もお薦めです。若い頃に父親とケンカをして家を飛び出た主人公が、自分の家庭を持ち、「それを造れば、彼が来る」という不思議な声を聴く。そして、とうもろこし畑の中に野球場を造ると、やがて父と子の時空を超えた思いが伝わる……親子で見ると、いろんなことを感じられるはずです。

いま公開中の『おかあさんの木』も、家族で見てもらいたい1本です。戦争に翻弄された母親と7人の息子たちを描いた感動の物語です。戦後70年が経ったいま、ともすると忘れがちな「平和な日常をおくることができる幸せ」をあらためて考えさせられる作品です。1人の俳優としても、こういう作品にめぐり合えたのは意義深いことでした。

俳優、映画監督 田辺誠一
16歳で友人と「ART PROJECT」を結成し創作活動を展開。
18歳でモデルデビュー、23歳で俳優デビュー、30歳で監督デビュー。「かっこいい犬。」の画伯としても人気を博す。放映中のドラマ「戦う! 書店ガール」、6月6日公開映画『おかあさんの木』に出演。妻は女優の大塚寧々さん。高校生になった息子さんと3人家族。

 

(柳橋閑=構成 遠藤素子=撮影)
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