中国では、オーストラリアから牛乳が空輸され、地元産の4~5倍の価格で販売されているという。日本の安心・安全の酪農製品をアジアに売り込むことは十分に可能だろう。輸出を促すには海外からの輸入の自由化も必要だ。指定団体制度は段階的に廃止し、関税は徐々に引き下げていくことが望ましい。バターなどは海外の3倍以上という高い価格を消費者に押し付けることをやめ、安価な輸入品を提供し、国産品は品質の高い飲用乳やチーズなどでブランド化を図る。農家の創意工夫が、より評価される仕組みが必要だ。

米国やEUでは、関税を課すことで高い国内価格を維持する「価格支持」から、補助金を払うことで農家の所得を維持する「直接支払い」にシフトすることで、自由な輸出入と農業保護を両立させている。

たとえばEUは1970年代に「バターの山、ワインの湖」というほどの過剰生産に悩まされた。このため農家への「直接支払い」に軸足を移した。この結果、 農産物は国際価格に近付き、消費者負担は減った。「直接支払い」の受給には、環境保護や土壌保全などの要件を満たす必要があるため、農家の集約も進んだ。

日本で「価格支持」が続いているのは、農協が手数料収入に依存しているからだ。「価格支持」では、消費者にも大きな負担がかかる。

輸入自由化は、必ずしも農業の衰退を意味しない。日本では1991年に牛肉の輸入が自由化された。だが「和牛」は現在も好調だ。国内の牛肉生産量は、90年度から2013年度にかけて、約39万トンから約36万トンに減ったが、「和牛」は約14万トンから約16万トンに増えている。

95年にGATTが「WTO(世界貿易機関)」に改組された際、細川内閣は日本の農業保護のために6兆円もの事業費を執行した(※2)。だが農協を中心とした「価格支持」という政策を変えなかったため、日本の農業は、依然として納税者負担と消費者負担の両方を強いている。

農業者を弱者とみなす保護政策は弱者を再生産し、弱者の状態をさらに悪化させる。日本の農産物は、国内的に重要な品目が高関税に守られているため、内向きな対応に終始し、輸出機会が失われてきた。また日本の農政は、退出すべき零細農家を温存する政策を採ることで、伸びゆく人材の成長機会を奪ってきた。さらに農地所有を農家に限り、外部からの参入を規制してきたため、農業投資が過小になっている。本来、TPPへの参加は、こうした日本農業のトレンドを断ち切る絶好の好機だった。これまでの仕組みはもう続けられない。その事実から目を背けるべきではないだろう。

※1:農林水産省は「バター不足に関するQ&A」という特設ページ(最終更新日 平成27年3月4日)にて、今後の見通しについて「年度内に必要なバターは、確保されたものと考えています」としている。
※2:農林水産省「ウルグァイ・ラウンド(UR)関連対策の検証」(平成21年3月)によれば、事業費6兆100億円、国費2兆6700億円。対策事業費の内訳としては、農地や農道、灌漑施設の整備などの公共事業「農業農村整備事業」が53%を占めた。

(プレジデント編集部=構成)
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