医療保険に入る前に
健康保険制度を知ることが保険料のムダを省く
病気にかかるお金に備えるには、民間医療保険に入ることと考える人が多いが、保障設計のベースになるのは「健康保険」であることを知っておきたい。健康保険の知識を持たずに、医療保険選びをすると過剰な保障をつけることが多く、ムダな保険料を支払うことになるからだ。
病院で健康保険診療を受けると、窓口では原則3割(3~69歳の場合)を支払うが、自己負担額が一定額を超えると「高額療養費制度」により超過分の払い戻しが受けられる。つまり、医療費は青天井でかかるわけではなく、一定の上限が設けられているのである。
1カ月の限度額は、所得により3段階が設けられている。所得区分「一般」を例に制度の仕組みを見てみよう。表にある通り、自己負担限度額は原則として8万100円で、これを超えると1%の追加負担がかかる。たとえば、1カ月の医療費が100万円だったら、窓口での支払いは3割の30万円だが、自己負担の上限額は表の計算式にあてはめると8万7430円。30万円との差額、21万2570円が健康保険から3~4カ月後に払い戻される仕組みだ。所得区分の一般の該当者なら、1カ月の限度額は9万円前後が目安となる。
うれしいことに07年4月から入院に関しては、「立て替え払い」せずに上限額を支払えばすむシステムが導入された。入院の際、「限度額適用認定証」という書類を病院に提出する必要がある。書類は健保組合加入の被保険者は健保組合、政府管掌保険加入の被保険者は、社会保険事務所から取り寄せる。退職後は、市区町村の国保係が窓口となる。
福利厚生制度により
1カ月の上限が2万円の会社員は結構いる!
福利厚生が充実している企業なら、健保組合の上乗せの給付により、上限額が月2万~3万円というケースもある。高額療養費制度を知っていても、健保組合の上乗せを把握している50代男性会社員はほとんどいない。企業向けのライフプランセミナーの講師をつとめることがあるが、筆者からその企業の上限額を聞いて初めて知りましたという参加者が9割以上なのだ。たとえば、上限額2万円のケースなら法定給付の8万100円(または15万円)との差額がその健保組合の付加給付となる。勤務先の福利厚生ハンドブックや加入の健保組合のサイトで調べてみよう。
特に額面の月収が53万円以上の「上位所得者」は、自分の限度額をチェックすべき。上位所得者の限度額は15万円と「一般」の2倍近くなるが、一般と同じ限度額にしている健保組合が多いのである。このメリットは大きい。仮に1カ月の自己負担額が2万円なら、民間医療保険に頼らなくてもすむのである。
70歳以降の自己負担限度額は、左中段の表の通り。ポイントは、通院だけの限度額と、入院をした月の限度額が異なる点だ。所得区分が一般だと、69歳までの限度額より低くなるが、収入が高いと「現役並み所得者」に該当し、限度額はそれまでとあまり変わらない。
注意したいのは、高齢化と健康保険の財政難の影響で今後、現役並み所得者の収入要件が引き下げになる可能性が高いこと。退職後は、自治体広報紙やサイトなどで制度改正をチェックしたい。
退職後は国民健康保険の加入者となり、前年の所得に応じた国保保険料を払うことになる。ただし、勤務先の健康保険を退職後2年間、「任意継続」することが可能。退職直前の給与収入に応じた国保保険料より、任意継続した場合の健康保険料のほうが少なくてすむケースが多いので、保険料を比較のうえ、任意継続を検討するといいだろう。付加給付があるなら、迷わず任意継続をお勧めする。