混乱続きのMRJだが、それは新素材を多用するなど、先進性重視のコンセプトを放棄していないがゆえの困難でもある。MRJの尾翼の材料は前述のカーボンコンポジット。三菱はかつて、自衛隊向け戦闘機F2をつくるにあたり、世界で初めて主翼をカーボンでつくった。その実績が買われ、ボーイング787のカーボン製主翼のOEMなど世界最先端の仕事を獲得。そこで経験を積んできたからこそ、商用機開発の一発目から先進性重視の機体を設計できるのだ。

そればかりではない。機体開発に乗り出したことで、最終顧客である航空会社と直接対話し、ニーズを知ることができるようになったのも新鮮な体験であったという。

「これまでOEMを通じて技術面に関してはさまざまな経験、ノウハウを得てきたが、航空会社の声を直接聞く立場ではなかった。が、機体を自社でつくり、販売する場合、航空会社が何を求めているかを丁寧に聞き、そのニーズを反映させることが販売を成功させるうえで不可欠。最初は航空会社とどうコミュニケーションを交わしたらいいかもわからない状況だったが、今はかなり突っ込んだ話もできるようになったと思う」(岩佐氏)

エントランスに、12年7月に英ファーンボロー国際航空ショーで初披露した客室のモックアップが展示されている。三菱航空機関係者は、「荷物棚を見てください。国際線の機内に持ち込める最大サイズのトランクが収納できるようつくっています。幹線からリージョナルジェットに乗り換えても、お客様は荷物をそのまま持ち込めるんです」

と説明する。胴体のスペース効率も高く、4列シートのエコノミークラスのシート幅は快適性で高く評価されているエンブラエルの小型旅客機よりさらに広く、ボーイング787、エアバスA380のエコノミークラスと比べてもなおゆとりがある。シートバックは薄くつくられ、膝元空間にもゆとりがある。

「こうした乗客重視の設計は、航空会社と直接話をしなければ、知る由もないこと。よりよいモノづくりに終わりはありませんが、ニーズの汲み上げができるようになったことは何よりの財産」(三菱航空機関係者)

燃費、快適性、利便性などの仕様が固まりつつあるMRJ。待たれるのは初飛行である。2013年10月、大江工場から機体モジュールが出荷され、滑走路のある小牧南工場でようやく最終組み立てが始まった。

「航空機は顧客に引き渡され、10年、20年と使われて初めて評価が定まる世界。今度こそスケジュールに沿った初飛行を行いたい。MRJは最終目標ではなく、この型式認定が民間航空機事業の始まり。MRJの成功があって初めて、その次の飛行機をつくる道がひらけるのだから」(岩佐氏)

(時事通信フォト=写真)
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