私にとっての鬼上司は、東レ中興の祖ともいわれる前田勝之助名誉会長である。1985年、プラザ合意がなされ、急激な円高が進行した。その際、赤字を余儀なくされた東レの繊維事業を担当役員として2年で黒字化した人物だ。当時、その情熱と仕事の手法を繊維企画管理部の課長として目の当たりにし、私は「東レにも恐るべき人がいる」と感じた。

東レ名誉会長 前田勝之助氏●1931年生まれ。56年東洋レーヨン(現・東レ)入社。同社の社長、会長歴任。経済団体連合会副会長も務めた。(写真=読売新聞/AFLO)

そして87年、前田氏は末席常務から14人抜きで社長に就任。彼は経営企画室を一新し、繊維、プラスチック、ケミカル、複合材料、新事業、研究、財務経理、国際の各分野のエキスパート8人を招集し、経営スピードを加速させようとした。そして、私も繊維担当としてその内示を受けた。