電車内の静けさは「異様」

電車の中の静けさも異様に映るようだ。

混雑した電車の中であっても、聞こえてくるのは車掌のアナウンスと車両の奏でる機械音くらい。一部の主婦や若者を除いては、皆、押し黙っている。

もともと自己主張の強い人々が多いイスラム圏ではアナウンスの声がかき消されるくらいに大声で会話しているのが普通で、日本の電車内の静けさが不思議に感じられるようだ。

知人のあるアラブ人の男性から、「日本の女の子は化粧は上手だが、怖い!」と言われたことがあった。

どこが怖いのかといろいろ質問してみると、どうやら怖さの理由はその表情の乏しさにあるようだった。これは、私が海外から帰国して電車やバスに乗ったときにもよく感じることだが、確かに日本人の表情が能面のような印象を受けることがある。

そのアラブ人が日本で混雑した電車に乗ったとき、持っているバッグが若い女性の身体のどこかに触れてしまった。すると、その能面のような表情で、無言のまま「キッ!」と睨みつけられてしまった。そのときの顔が怖かったというのである。

電車の中でケータイをいじっている人は総じて無表情である。表情を動かさずに誰かと文字で会話している。

極端な言い方かもしれないが、ケータイメールの普及は、日本人から生の会話を奪い、表情の豊かさを奪っているのではないか……。

アラブ人と話をしていて、ふと、そんなことを感じたのだった。

※本連載は書籍『面と向かっては聞きにくい イスラム教徒への99の大疑問』(佐々木 良昭 著)からの抜粋です。

佐々木 良昭ささき・よしあき)●笹川平和財団特別研究員。日本経済団体連合会21世紀政策研究所ビジティング・アナリスト。1947年、岩手県生まれ。19歳でイスラム教に入信。拓殖大学卒業後、国立リビア大学神学部、埼玉大学大学院経済科学科を修了。トルクメニスタン・インターナショナル大学にて名誉博士号を授与。1970年の大阪万国博覧会ではアブダビ政府館の副館長を務めた。アラブ・データセンター・ベイルート駐在代表、アルカバス紙(クウェート)東京特派員、在日リビア大使館渉外担当、拓殖大学海外事情研究所教授を経て、2002年より東京財団シニアリサーチフェロー。2014年からは経団連21世紀政策研究所ビジティング・アナリストに就任。
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