報告書の類いを書く際に思い浮かべるのが、上司の顔だけだとしたら要注意だ。あなたの上げた情報は、最後に社内で最も数字に強く、最も数字を欲しがる人物――社長や経営陣の手に渡るかもしれないのである。彼らが一目見て「こいつ、わかってる……」と唸るような“魔法の数字”とは何か? 書面に添えるべき数字の広いレパートリーと、その奥深さを探っていこう。

【STEP0】

物事を数字に置き換えるということは、究極の具体化である。だからこそ、常に具体性が求められるビジネスの場では数字が不可欠なのだ。私は様々な会議でいろいろな資料を見せてもらう機会があるが、数字が入っているということは非常に大切。数字がない資料など論外である。

ただ、数字の扱いはそう簡単ではない。その難しさには、いくつかの段階がある。

月々の売上高のような、単なる事実としての数字が大切なのは当然だ。しかし、事実には信憑性や確度の問題がついて回る。たとえば、営業報告書に記す来月の売り上げ予測でも、希望的観測で書かれた数字と、きちっと見積もられたそれとでは価値がまったく違う。数字の扱い方以前に、まず信憑性や確度を高めることを考えなくてはいけない。この売り上げ予測の場合なら、誰の情報が信用に足るかは、継続的に会議に出ていれば自然とわかるものだろう。

もう一つ、数字の丸め方も大切だ。売り上げ1000億円の会社なら、場合によっては100万円以下の単位は必要ない。一方、私が役員を務める従業員約9000人の企業では、一人当たりの1時間の生産性を計算しているが、5円違うと年間の利益の額が億単位で変わってしまう。ケースごとに丸め方を使い分けよう。

【STEP1】時系列の変化

こうした“ゼロ段階”を踏まえたうえで、改めて数字の扱いの基礎から述べていく。

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時系列データと移動平均

まず経営陣が知りたいのは、過去からどう変化してきたかがわかる「時系列の推移」だ。その代表が、売り上げや利益の前月比、前年同月比、前年同期比だろう。多くのビジネスには季節要因があるので、このうちどれを使うかはケースバイケース。たとえば、蒲鉾は正月を控えた12月に売り上げが多く立つが、11月との対比ではなく、前年同月と比較して初めて意味がある。それとは別に、時にはすべての月の流れが必要な場合もある。過去12カ月の推移を、折れ線グラフや棒グラフで見せるとわかりやすい(図参照)。