5■「客の客」にまで目が届かない“近視眼”営業マン

バイヤーに対し代案のタマをいくつももつ。それには営業マンはバイヤーの後ろにいる“客の客”にまでリンクを張る必要がある。

日本IBMの鈴木氏が話す。

「われわれ購買には社内に開発や製造など、買ったものを使うユーザーがいます。購買から見積依頼が飛んだとき、優秀な営業マンは購買の後ろにいるユーザーがその注文についてどのくらいの深さと広さを求めているか、ユーザーも同席させたミーティングの場をもとうとします。ユーザーのニーズがわかれば代案のタマを出せる。そこまで目が届きます」

一方、百貨店の場合、バイヤーにとっての客は来店客になる。業界屈指のカリスマ紳士服バイヤー、松屋銀座本店の宮崎俊一・専門課長によると、敏腕営業マンは“聴力”も頭抜けているという。

「普通なら営業マンは商品を買われたお客様の声を聞こうとします。それにとどまらず、試着までして買われなかったお客様が帰り際に残していったひと言を販売員から聞き出そうとする。何が原因だったのか。記録に残らない声にまで神経をとがらせる営業マンには脱帽します」

バイヤーの向こう側にいる客を見る視力と、表に出ない声を聞く聴力。自分の身の回り半径1メートルぐらいしかに感度の及ばない営業マンとは雲泥差だ。

 

6■できない約束をする実力偽装の“星野ジャパン”営業マン

松屋 専門課長(紳士二課)●<strong>宮崎俊一</strong>

松屋 専門課長(紳士二課)●宮崎俊一

「できません」といって帰ってしまうのは営業失格だが、それ以上に最悪なのは「できます」といって、できない約束をする営業マンだろう。松屋の宮崎氏も「もう来ないでほしい」と怒り心頭だ。

「『決裁がなかなか下りない』とか、『生地が集まらない』とかうやむやにしておけば、そのうち忘れると思うのでしょう。ベテランに多い。これまでは口先で通用してきたとしても私は信用しません」

実力偽装の営業はどの業界にもあるようだ。PR会社の売り込みを受ける大手メーカー宣伝部のB課長が話す。

「あれもできます、これもできますといって、結局できない。本人も初めからできるとは思っていない。でも、できないといったら、その場で閉じられてしまうと思うのでしょう。

こちらも、相手ができるというから、期待してほかの動きを止める。1番痛いのは、ロスした時間です。それをどうしてくれるのか。誰もが時間との戦いの中で仕事をしていることがわからない連中に営業の資格はありません」

「金しかいらない」といってメダルにさえ届かなかった星野ジャパンに非難が高まったのは期待の大きさだけ、失望も大きいからだ。できない約束をするのは、「できない」というより信頼を失う。