現代の時の流れは、私がエイチ・アイ・エスを創業した34年前に較べて、各段に速くなっている。企業の勢力地図はまるでオセロゲームのように、あっという間に塗り替わってしまうようになった。
グラハム・ベルが電話機を発明したのは1876年のことだが、一般に普及するには、それから数十年の歳月を要した。ところが携帯電話はどうだろうか。小型化が達成されると、あっという間に日本中に広まった。そしてスマートフォンが登場すると、これまたあっという間に2つ折りの携帯電話を駆逐してしまった。
こうした時の流れの中では、変化に対応できない企業も人も瞬く間に脱落してしまう。
私がエイチ・アイ・エスを立ち上げた当時は、職場にコンピュータは1台もなかった。旅行代理店は手書きでブッキング・カードを作り、利用者に航空券を手渡ししていた。航空会社は旅行代理店を経由しなければ、チケットを利用者に販売することさえできなかったのだ。
ところが、インターネットとスマートフォンが旅行業界を完全に変えた。いまや利用者自らが世界中のどこからでも飛行機やホテルを直接予約することができる。その結果、従来型の旅行代理店は急速に存在意義を失い、これに代わって「エクスペディア」のようなオンライン旅行会社が爆発的に成長しつつある。
こうした、変化のスピードが速い時代を生き抜くのはしんどいことだが、裏返して考えてみれば、一夜にして巨万の富を手にできる面白い時代でもある。では、どうすればオセロゲームの勝者になれるのか。勝敗を分けるのは、情報と時間である。
情報の重要性を端的に示す例としては、私が再建に成功したモンゴルAG銀行(現在のハーン銀行)が好適だろう。実は、再建の打診を受けた2003年当時、破綻しかけているモンゴルの銀行などに興味を持つ人間はほとんどいなかった。しかし世界の情報の流れをつぶさに観察していれば、いずれモンゴルの豊富な地下資源に注目が集まり、モンゴルの経済が上向くことは自明だった。だから私は再建を引き受け、会長に就任した。予想通り、ハーン銀行は見事な復活を遂げて、いまやモンゴルナンバーワンの銀行となった。