30代前半の楽天社員・星野光一さん(仮名)は、蚊の鳴くような小さな声でポツリと話し始めた。

「楽天では英語ができることが、昇格の必須条件になりました。TOEICの点数で、最低600点以上、格付けや役職ごとに必要な点数が変わってきます。私たちはまだ日本語メインで仕事をしていますが、社長と役員クラスは英語メインで業務が行われているようです」

三木谷社長が掲げた12年、社内英語公用語化。英語を勉強するいい機会だと考えて一生懸命頑張る人、ニュースを聞いた親から心配する電話がかかってきた人、土日に集中的にトレーニングに励む人、TOEICの試験直前になって焦って勉強する人、楽天社内ではさまざまな反応があったようだ。

「楽天では毎週月曜日午前8時に朝礼があります。冒頭社長から10分ほどのスピーチがあり、その後、各事業からの報告があります。もちろんすべて英語です。出席を取るので社員のほぼ全員が朝早くに出社をすることになります。正直、この時間帯に英語でずっと話されるとウトウトしてしまうことがあります。周りにも寝ている人がたくさんいます。……でもよく考えたら、社長が日本語でスピーチしていたときでも寝ている人はいましたね(笑)」

社内文書はほとんどが英文になった。多言語を話す新入社員も増えている。社内の噂レベルではあるが、社員同士の連絡に使うショートメッセンジャーで、日本語が使えなくなり、さらには、英語が出世の条件にとどまらず、降格の基準にされる、という話もあるという。前代未聞の試みに不安を感じている社員もいるようだ。

「社員の中には、英語を苦手としている人も多い。転職を考えようかな、と思ったりするようですが、この不況ではなかなかそれも難しいようで」

トホホといった表情で星野さんは、経費削減策の一環か、18時以降エアコンが半分程度に弱まるオフィスで、今日も残業に精を出すのだった。