創造的に考えるための5つのヒナ型

インサイドボックスの思考法を実践するための、ヒナ型についての話に戻ろう。ゴールデンバーグ氏らが成功事例をつぶさに観察して発見した5つのヒナ型は、「引き算」「分割」「掛け算」「一石二鳥」「関数」である。実例を挙げながら順に見ていこう。

ヒナ型(1)「引き算」

革新的な製品やサービスは何らかの要素を取り除くことによって生まれることが多い。これを実践するためのテクニックが「引き算」だ。

引き算のテクニックが用いられたものに、世界有数のエレクトロニクス製品メーカーであるフィリップスが開発したDVDプレーヤーがある。以前のDVDプレーヤーは、古いタイプのビデオデッキのように大きく、様々な操作ボタンが本体に付いていた。つまり、メディアがビデオからDVDに変わったものの、プレーヤーの外見はほぼ同じだった。

フィリップスは、操作ボタンとディスプレーを完全にプレーヤーから「引き算」した。操作はリモコンからのみ行うように変え、本体には裏面のわずかなボタンだけを残し、表側には一切のボタンを作らなかった。本体付属のディスプレーをなくし、接続しているテレビに操作画面を表示するようにした。この結果、DVDプレーヤーをスリムで、安価で、使いやすいものにすることに成功したのだ。

またアップルの「iPodタッチ」も引き算のテクニックがうまく活用されている。アップルはスマートフォンである「iPhone」から通話機能を削除することにより、「iPodタッチ」を作り出した。「電話から通話機能をなくす」という常識破りのこの商品は、大幅に売り上げを伸ばし、新たなマーケットを開拓した。

ヒナ型(2)「分割」

分割とは、既存の構成要素を分割し、一部を分離して用いるようにするテクニックを指す。

エアコンの例がとてもわかりやすい。初期のエアコンは1つの大きな箱の中にサーモスタット、ファン、冷却ユニットなど、必要な機能をすべて搭載していた。しかし、モーター部分を分割し、「室外機」として室外に置いたことで、エアコン本体が発する騒音と熱を減らした。

分割のテクニックが使われているケースは多い。例えば、エクササイズ用のダンベルは、重りと持ち手を分割することにより、自在に重さを調節できるようになった。