成功するものには商品を生み出すパターンがある

「イノベーションの数を増やし、その質とスピードを高めるには、一定のヒナ型にのっとって、勝手知った世界の内側で――つまり枠の中(インサイトボックス)でいろいろな制約を踏まえながら思考するべき」と、コロンビア大学ビジネススクールのゴールデンバーグ氏は言う。

ゴールデンバーグ氏らは1999年、成功している数百点の商品を調べ、類似商品と何が違うのかを洗い出した。その結果、それらの商品が考案される過程にはいくつかの共通パターン、ヒナ型が発見できたという。彼らはこの結果を受け、そのヒナ型に従って知恵を絞ることで、誰しもが創造性を高められるという結論に至った。

「インサイドボックス」の思考法のヒナ型を知る前に、一般的に効果的だとされている「アウトサイドボックス」の思考法の意外な弱点を、簡単に理解できるエピソードがある。

ナイン・ドット・パズルの正解

9つの点が並んだ図を見てほしい。そして、「この点すべてを一筆書きの直線で結べ。ただし、線が折れていいのは3回だけとする」という問題の答えを考えていただきたい。この問題は有名なので、ご存じの方も多いのではないか。

答えも同じ図の中に示した。ご覧いただける通り、正解となる線は点が形作った正方形の枠を飛び出している。この問題は心理学者J・P・ギルフォードの研究で知られる「ナイン・ドット・パズル」と呼ばれるもので、「創造的な回答は枠の外で考えるべき」という「アウトサイドボックス」を象徴する例として知られてきた。70年代前半に行われた実験の際に、被験者の解答の正解率は20%程度だったという。

実験後のアンケートでは「枠の外で考えることを思いつかなかった」という言葉が正解を出せなかった被験者から多く聞かれたという。そのため、この実験は「枠の外で発想することの大切さ」を示す絶好の例として多く用いられてきた。

しかし異なる条件で実施された近年の実験で、興味深い結果が示された。異なる条件とは、あらかじめヒントとして被験者に「正解は、枠の外まで線を引く」ことだと教えてから、解答を考えさせるようにしてみた。この結果、正解率は約25%で、統計的な誤差を考慮すると、ヒントを出さない場合とほぼ同じ正解率という驚くべき結果になった。つまり、いくら「枠の外で考える」ことを事前に教えても、人は簡単には正解に辿りつけないのだ。

現実世界ではこの問題のように、革新的なアイデアのありかがわかる「枠」がわかりやすく存在しているわけではない。ただ、このナイン・ドット・パズルの実験は、「枠の外で考えること」と「創造性」の間には関係がないことをわかりやすく示す例だといえるだろう。