「郊外型ショッピングセンターという業態自体がこれまでベトナムに存在していなかったので、インパクトがあったのでしょう」と語るのはイオンベトナムの西峠泰男社長だ。
エントランス脇には自転車コーナーがある。バイクでの移動が一般的なベトナムで、自転車なんて売れないというのがスタッフの意見だったが、強行したのは西峠の直観だ。ふたを開けてみると大ヒット。1台3万~5万円もするスポーツ車や電動自転車が月に500台も売れた。
「誰も予想しないことにチャレンジするのは面白いですね。おしゃれや健康といった豊かなライフスタイルへの憧れが想像以上に大きいようです」
西峠がベトナム出店のプロジェクトリーダーを命じられたのは09年。89年にジャスコ(現イオンリテール)に入社した西峠は、関西地区のマックスバリュの店長をいくつか担当したのち、イオンリテール西日本カンパニー、中部カンパニーの事業部長を歴任してきた実力の持ち主。しかし、ベトナムプロジェクトのリーダーに指名されたときは、頭の中が真っ白になったという。
「約30年間、アセアンへの進出はありませんでしたから、まったく考えていませんでした。まずは先輩に話を聞きながら、海外の新規事業とはどんなものなのかという、自分なりの構想を練ることから始まりました」(西峠)
市場開放が進んだとはいえ、社会主義国。想定外の苦労は続いた。
「ひとつは郊外の大規模開発に適したまとまった土地が少なく、しかも不動産の値段が非常に高かったこと。2つめはライセンスの申請手続きが不透明で、時間がかかったこと。3つめはインフラ整備が非常に遅いというのが実感です。集客には交通インフラがキーになるのですが、鉄道や道路の計画が、後ろ倒しになりがちで……」
ベトナムには外資小売業の店舗拡大に規制がある。にもかかわらず短期間で4店舗もの許可が下りたのは、2000年から続けてきた学校建設や教材の提供、教員の育成プログラムへの支援や、戦争時の爆撃や生活用の木材として伐採されて荒れた森の再生など、ベトナムの国としての発展に地道な貢献を続けてきたことが大きい。