改革にはゴールがない理由
とはいえ、変革推進にはリーダーの腕力も必要なときがある。ただ、それが何年にもわたって続くと、社員がそれに慣れてしまうデメリットも確かに存在したのだ。しかも、ドラスチックな改革の過程で縮小や閉鎖された部門もあり、そのためにポストを失った人がいることも事実だ。それを見ていた社員たちが、ある意味で保守的になってしまうのはいたし方ないことかもしれない。
私は、会社の組織には一定のルールが必要だと信じる。その根本に置くべきなのが“権限と責任”だろう。『論語』に「君君たり、臣臣たり」とある。政治について問われた孔子が答えた言葉で、主君と臣下それぞれが役割を果たせば国は治まるということだ。これを会社に当てはめれば、社長も社員も各々の職責をまっとうすることに通じるだろう。そして、役職者の職務上の権限はそのために付与されたものだ。
もちろん、課長と部長、あるいは執行役員では、その守備範囲は異なる。だが大切なことは、自分が所属する部門だけでなく会社全体のことを考えて権限と責任を行使していくことである。それが、ある意味ではビジネスマンの“大義”といってさしつかえないだろう。間違っても、自己保身のためであってはならない。けれども、知らず知らずの間に、社内がそうなっていたことを知り、私自身も反省せざるをえなかった。
考えてみれば、変革にゴールはないということである。全社一丸となって取り組んだ変革の完了は、次の変革に向かってのスタートと位置づけなければいけない。市場や時代、また社員を含めたステークホルダーのニーズに応じて、継続的に変革を推進していく必要があるわけだ。そのことは、会長職になってからも、毎日のように社員に訴え続けてきた。なぜなら私は、当社の変革のメリットもデメリットも間近に見てきた。その上で、さらなる改革に挑んでいくことが自分の使命だと信じているからである。
1947年、広島県生まれ。県立広島観音高校、中央大学法学部卒。70年シェル石油(現昭和シェル石油)入社。2001年取締役。常務、専務を経て、06年代表取締役副会長。09年会長。13年3月よりグループCEO兼務。