「繊維=衣料」の常識に立ち向かう
ただ、社内対応には苦労しました。取引先からの新素材開発や量産の要望に対応するため、設備投資に踏み切ろうとしても、社内で賛同が得られないのです。それまで委託賃加工に安住してきた会社だけに、自社開発のための設備投資やリスクに耐えうる力、資金繰りに必要な財務機能などないに等しかったのです。自動車業界という新しい取引先に対してもリスクを懸念する声が上がり、それらが大きな壁となって立ちはだかりました。
自動車内装材を量産するには、これまで自社の機能としては持っていなかった原糸の購入から編みや織りなど染色以外の製造工程にも対応する必要がありました。なぜなら、一貫した生産体制を確立してこそ、品質、納期、コストのトータルマネジメントが可能になるからです。本社の非協力的な対応に行く手を阻まれながらも、なんとか外部からの融資を得て、自動車内装材専用の技術開発部隊と工場を別会社として設立しました。これがのちに、セーレンが製造から販売まで一貫して行う企業へ脱皮するための第一歩となったわけです。
自動車内装材の事業が拡大し、利益が出る一方で、オイルショックを境に繊維産業は斜陽化の一途を辿り、セーレンの主力事業である委託染色加工の業績はどんどん悪化していきました。当時は「繊維=衣料」が常識でしたが、衣料にこだわっていては会社の将来はない。そのような危機感から、87年の社長就任後すぐに、5つの経営戦略の一つとして打ち出したのが「非衣料・非繊維化」でした。繊維で培った技術を衣料以外の幅広い分野に展開するため、次の5つのベクトルを設定したのです。それが「オートモーティブ」「インテリア・ハウジング」「メディカル」「エレクトロニクス」「ハイファッション」です。これらの非衣料を中心とする分野は、いまではセーレンの売り上げの70%強を占めるまでに成長しました。