英語は仕事の上で必要なレベルでいい

葛城崇・楽天グローバル人事部副部長

【三宅】社員たちへの配慮があるのはわかりましたが、それでも実際に退職した人はいるのでしょうか。

【葛城】英語が最大の理由で退職したという社員はおそらくほとんどいないと思います。主たる原因が他にあって、それに加えて、英語が退職理由に挙げられるというケースはありますが。辞めた社員から、英語公用語化は賛成できなくて退職したけれども、新しく入った会社が英語化を始めた、と聞いたことがあります。また、転職エージェンシーで最初に聞かれる質問が「英語をしゃべれるか」だった、といった話も。だから、結局楽天を辞めた後も、世の中が英語を必要としている。

【三宅】現在、楽天の「英語の公用語化」を宣言されてから約5年経過しています。TOEICスコアはどのように伸びてきたのですか。

【葛城】英語の公用語化を決めた最初の全社員平均は526点でした。最新データでいうと全社員の平均は800点に達しました。

【三宅】すばらしい成果ですね。仕事上における公用語を英語にしたわけですが、社員のコミュニケーションの仕方に変化はありましたか。英語的な思考をもとに、結論を先に言うようになったとか。

【葛城】元々、楽天という会社には、プレゼンテーションのときなどに、端的に話しなさい、というカルチャーがありましたので、そこまでの大きな変化は見られなかった。ただ、社員皆が自信を持つようになった。自分たちも英語が出来るようになった、やれば出来ると。今までと違い、積極的に外国人に話しかけるようになりました。「タダで英会話できる」といった具合に(笑)。ためらうことなく外国人と意見や情報を交換するようになったのです。

【三宅】すばらしい。日本人全体がそのようにためらうことなく英語を話しかけるようになればいいですね。別に完璧な英語でなくても、いいのですから。

【葛城】その通りです。楽天は、ネイティブレベルの英語を目指しているわけではないです。流麗な英語を使えるのはもちろんいいことですが、仕事の上で必要なレベルでいいのです。

もう1つポイントとなるのは、英語ができない人をバカにしない、ということです。そのような暗黙のカルチャーが楽天にはあります。文法の間違いが多少あっても理解できるわけですから、とにかく喋ってみよう、と。

【三宅】今の時代、英語を話すビジネスの相手は、アメリカ人だけではない。東南アジアの人や中近東の人、世界中の人たちと話すわけですから、ノンネイティブとして相手にきちんと伝わる英語であれば、それで十分なのです。

【葛城】その通りです。