年収1000万円以上のビジネスエリートに「好きな著者」を聞いたところ、カーネギーやドラッカーを凌いで、なんと司馬遼太郎が堂々の1位に輝いた。彼らはなぜ経営書ではなく司馬遼太郎作品を読むのだろうか。

脳科学においては、「一回性」というキーワードが大きな課題となりつつある。たった1回きりの前例のない人生にどう向き合っていくのか、それが脳にとっての最も重要な課題である。

世に溢れるビジネス書の類は、基本的に複数回応用可能なノウハウ本である。「このような場合には、こうせよ」という人生の指南書である。しかし司馬作品において、そのような読み方は不可能だ。坂本竜馬や秋山兄弟が生きた時代は、もう二度と訪れず、その意味では司馬文学は、二度と起こりえないことを描いている「一回性」の文学ということもできる。

(構成=三浦愛美 撮影=若杉憲司)