「現場力」を重視する理由

櫻田謙悟・SOMPOホールディングス社長

私どもはグループの一層の成長に向けて、既存事業の強化や海外M&A、新事業を含む成長分野への投資に取組んでいるが、これからのグローバル競争を勝ち抜くためには、自社の得意分野を見極め、さらに磨きをかけることが要諦だと考えている。いわゆる「コアコンピタンス」の活用である。私はこの言葉を広義に使っており、それは会社が持っている文化であるとか、意思決定の仕組みであったりする。

では、SOMPOホールディングスにおけるコアコンピタンスは何か。数年前から、このテーマを役員や部長に投げかけ、出た結論が“現場力”である。現場で発揮すべき力というのは、ほかでもない顧客への貢献力だ。例えば、顧客に一番近いところにいる営業店の社員が「お客様のためになる」と判断して行ったものであれば、プラスの結果になれば当然褒めるし、そうならなかったとしても叱らない。上司はなぜダメだったのかを一緒に考え、励まし、次こそは成功へと導くことで現場力は磨かれる。

高い顧客満足を実現するうえで、忘れてはならないキーワードのひとつに「真実の瞬間」がある。1980年代にスカンジナビア航空が経営再建に取り組んだ際、当時の社長兼CEOだったヤン・カールソン氏が著書の表題に使って有名になった。それは「顧客は、その企業に接する最初の瞬間に、その企業のサービス全体に対する良し悪しを評価してしまう」ということだ。

会社側でこの瞬間を知りうるのは顧客に一番近いところにいる社員である。その意味で、当グループのコアコンピタンスのひとつは「人材」となる。たとえば損害保険は非常にコモディティ化が進んでおり、保険事業におけるキーファクターは、顧客から「あなたが言うなら」とか「あなたがいるから」と選んでもらえる関係の構築だ。だからこそ、顧客と近い場所での判断と行動は尊重されなければならない。

ただし、社員と顧客が良いと思ったとしても、グループ全体として見たら正しくないという場合もあるだろう。こうした際に全体最適の視点から「現場力」が正しく発揮されるように支援するのが本社部門の役目であると考えている。繰り返しになるが、大切なのはお客さまに接する「現場」の考えがまず優先されるということだ。