コンピュータと5人のプロ棋士が戦う「電王戦」。今年は4勝1敗でコンピュータに軍配。(写真=時事通信フォト)

NHKのある番組で人工知能の特集があり、私も出演させていただいたのだが、その中で、印象的なエピソードがあった。

最近の人工知能は発達していて、将棋のプロ棋士とも互角の闘いをしている。まだ、羽生善治名人などのトップ棋士との対戦はないが、中堅、さらにはかなり上位の棋士との棋戦でも、しばしば勝つようになってきている。

近い将来、名人や竜王などのタイトル保持者と対戦して勝つときが来るかもしれない。人工知能の発達は、まさにめざましいが、その思わぬ副産物があるのだという。

たいへん厳しい、トップ棋士の世界。年齢を重ねると、記憶力や思考の粘り強さで勝る若手の棋士に、次第に敵わなくなってきてしまう。

ところが、あるベテランの棋士が、最近「復活」を遂げているという。そのきっかけとなったのが、人工知能。人工知能を相手に将棋をすることで、棋力がめきめき上がっているというのである。

大量のデータに基づく緻密な読みや、人間が陥りがちな「固定観念」にとらわれない斬新な指し手が、人工知能の特徴。このような、人間よりも優れた性質を活かすことで、人工知能が、なまりがちな頭脳を鍛えるよき「トレーナー」となるらしい。

たとえて言えば、中年になって肉体が衰えてきたな、と思っていたら、最新のトレーニングマシンが手に入って、体力が復活してきた、というようなイメージ。このような人工知能の活用は、これから増えていくのではないか。

IBMが開発し、人間のチャンピオンを雑学クイズで破った人工知能「ワトソン」は、今、医療の診断への応用が研究されている。患者の病歴や症状、検査データなどに基づいて、可能性のある病名を確率とともに列挙するのだ。

最終的な判断は人間の医師がやるとしても、思わぬ見落としなどを防止する効果もある。また、医学生にとっては、ワトソンと診断を競い合うことが、よい学習の機会になるだろう。ベテランの医師も、ワトソンとやりとりすることで、自分の医学知識のブラッシュアップになるかもしれない。