冨山レポートの本当の狙い

しかし一見乱暴な主張にみえるが、冨山レポートを注意深く読むと、一面で理に適った主張とも取れる。「質の良い奴隷の大量生産」などという差別的考えには立脚していない。本レポートは、冨山氏が6月に出版した「なぜローカル経済から日本は甦るのか GとLの経済成長戦略」(PHP新書)を下敷きにしている。要点だけをまとめると、従来の大企業と中小企業という分類をやめ、G(グローバル)企業とL(ローカル)企業とに分けて考えろというものだ。G企業とは、自動車、電機・機械、医療機器・製薬、情報・ITといった企業であり、GDPに寄与する比率は30%程度。

一方、L企業は交通・物流、飲食・宿泊・小売(対面販売)、医療・介護・保育等でGDP比率が70%にものぼる。G企業はグローバル経済圏で完全競争にさらされ、勝つか負けかの戦いを強いられる。そのため、高度なグローバル人材が必須となる。しかし知識集約型だから、多くの社員を必要としない。一方L企業は地域に根を張り、人を相手にするため労働集約型で人手を必要とする。いま少子化で、多くの地方企業が人手不足に陥っている。

一部のトップ校は世界に通用する高度人材を育成し、それ以外の大学はL経済を支える人材育成を担う。大学もG人材とL人材の両方を追いかけるのではなく、機能分化すべきだ、というのが今回の提言の趣旨だろう。我が国の産業構造と労働生産性の観点からは、至って合理的な主張だと思われる。

「どういう根拠に基づいて、職業訓練校化せよと言っているのか」(本間政雄・梅光学院理事長)

本間氏は京大副学長、立命館大学副総長を歴任、OECDや仏大使館への出向経験もあり、国際畑が長い、元文部官僚だ。現在の大学への厳しい批判と受け止める話だと認めながらも「政策提案としては荒唐無稽だ。大学形成の歴史を見ても、最初は職業訓練校から発展、大学になった学校も少なくない。実務を教えるだけではダメだという反省からだ」と手厳しい。

ただ冨山氏の見解について「今の大学が、教養教育と専門教育を組み合わせてリベラルアーツとか言っているが、十分機能を果たしていない。だからいっそのこと専門学校のように、あるいは職業訓練校のように、実技を教えればいいじゃないかと言っているのでは」と理解も示す。しかし「単に簿記会計が出来るだけでいいはずはない。ビジネスが国際的に拡がっていく時代に、イスラム教徒とは何かとか、インドの歴史とは、シンガポールの成り立ちはどうかなど、歴史・経済・文化、宗教を学ばなくてはどうするのか」と警鐘を鳴らす。