残業禁止や残業削減に独自に取り組む企業が増えている。そこで働く社員は、限られた時間で成果を出すためにどんな工夫をしているのか。

メールを片っ端から返信するように

20時以降の残業を禁止して以降、会議の回数は約3割、総時間数は約4割減ったという。「朝、私が早く起きるので妻や子供も合わせて早起きするようになり、家族の生活も規則正しくなりました」(太田剛氏)。

伊藤忠商事では岡藤正広社長のリーダーシップのもと、2013年10月より夜の残業ありきの働き方を見直し、朝型勤務への転換に取り組み始めた。20時以降の残業を原則禁止してどうしても必要な場合は事前申請制とし、22時以降の深夜残業を禁止する一方、残業は翌日の朝勤務へシフトするというものだ。インセンティブとして朝5時から8時の時間帯は深夜勤務と同様の割増賃金を支給し、8時前に始業する社員には軽食を提供している。

しかし世界を相手に24時間戦うイメージのある商社で、果たして朝型勤務へのシフトなど可能なのか。最初に会社のアナウンスを聞いたとき、金属カンパニー原子力・ソーラー部の太田剛氏も同様の印象を持ったという。

「自分の都合で仕事を切り上げるのは顧客第一と真逆の発想ではという疑問もある。だから朝型勤務といっても自主運用でやれる範囲内の制度で、あまり自分に影響はないと思っていました」

実際、導入された初日も太田氏は20時を超えても従来と同じように仕事を続けていたが、思いがけない事態が起こった。

「見回りの人が来て『なんで帰らないんですか』と注意され、翌日も『昨日残っていた者、出てこい』と言われ、会社は本気でやる気なのだなと。これは仕事のやり方を切り替えないといけないな、と思いました」

それまでの太田氏の1日は、繁忙期を例にとると朝9時に出社し午前中はメールチェックや打ち合わせの準備、午後は夕方まで顧客とのミーティング。夕方から夜にかけて社内の協議を行って自分の業務に戻り、終電まで集中するというパターンだった。こうした働き方が不可能になり、見直したのが午前中の使い方と仕事の進め方である。

「今後は午前中からミーティングをどんどん入れていかなければ業務が回らなくなってしまう。それには一つひとつの物事を考え、決めるプロセスを早める必要がありました」