かつては郊外に戸建てのマイホームを構えるのが、都心で働くビジネスマンの夢だった。その郊外の戸建て住宅でいま何が起きているかというと、親から子供への相続に関する問題である。相続する子供はそこに住む気はさらさらないし、だからといって売ろうにも売れないという厄介な事態に陥っているのだ。
30代、40代の働きざかりのビジネスマンがどこに住みたいかというと、やはり職場に近い都心部である。片道で1時間半も2時間も電車に乗るのは、まさに通勤地獄で日々の仕事の能率にも支障をきたす。それに子供の教育環境を考えると、学校の選択肢が広がる都心部のほうがいい。だったら、相続を受けた家を売って住宅ローンの繰り上げ返済に充てようと考える子供たちも多いのだが、そこで大きな壁としてたちはだかるのが「建築協定」なのだ。
建築協定は良好な住環境を守るために、建築基準法に上乗せする形で自主的に設けられた地域独自の建築規制である。原則として地域住民全員の合意、市区町村の認可が必要で、合意した住民は協定を守る義務を負う。協定を結んだ土地を後から取得した人にも、その効力は及ぶ。運用は住民代表(運営委員会)が行い、違反建築に対して、工事差し止め請求などの法的措置を取ることもある。
協定による制限は、敷地の広さ、建物の階数・高さ、構造、用途など多岐にわたる。家の周りを生垣で囲む、家の外観の色調を統一する、といった取り決めも可能だ。テレビドラマ「金曜日の妻たちへ」の舞台となってバブル期に人気を集めた、東急田園都市線沿線・多摩プラーザ駅近くの新石川二丁目B地区(横浜市)の建築協定の例が別表である。建物を2階までの戸建て住宅に限ったり、敷地の分割を禁じたりするなど、かなり厳しい規制となっている。