中高年世代の頃から、定年後のことを踏まえ、人材を育成している企業もある。
「少子高齢化を見据え、はるか前からシニアの雇用対策を取ってきた。昨年の法改正に合わせた措置ではない」
住友電気工業の人事部労政グループ長の風隼武博氏と主査の高岡慎一郎氏が語る。シニア世代の雇用対策への取り組みは、70年代の初頭から始まった。
05年には「マスターズ制度」を設けた。60歳になり、定年を迎えた社員が希望すれば、1年単位で契約を更新し、働くことができる。09年からは、その上限を65歳にした。
基本的には仕事や労働時間は定年前と同じだが、扱いは時給制の非正規社員となる。
05年当時は時給1100円だったが、13年4月からは年金を受け取る前は1300円とした。年金支給開始年齢に達した後は、1100円になる。
年金を受け取る前は、定年前と同じ職場で働くが、年金を受け取るようになると、職場からの求人と本人の希望との調整で職場が決まる。
昇給はないが、賞与は評価にもとづき、年2回支給される。評価には一定の差を設け、それが支給額に反映される。
平均の年収は、60歳時点の約7割。この額は、厚生年金など公的な給付を含めたものとなる。14年3月には、約200人が60歳定年となった。140人が雇用延長を希望し、9割が残留し、働く。この200人は工場や作業場などで働く、いわゆるブルーカラーである。
営業や経理、総務などのホワイトカラーは別の扱いとなる。
風隼氏は「ホワイトカラーは、定年を迎える頃はグループ会社に出向・転籍をして管理職や役員になることが多い。役員になれば、65歳以上も働く人がいる」と説明する。
住友電工グループは国内・海外を合わせると、400社を超える関連会社で成り立つ。住友電工(正社員は約1万人)のホワイトカラーの多くは、20~30代から関連会社に出向し、管理に携わる。30~50代になれば、経営管理に関わり、一部は役員や社長になる。
風隼氏は今後、バブル期の入社組が50~60代になることを踏まえ、新たなシニア世代の雇用対策が必要と話す。
「人数が多いだけに、出向や転籍先がこれまでのようにあるか、管理職のポジションや仕事があるかなどを人事部として考えたい。グループは総じて堅調であり、グローバルに拡大傾向にある。それらの事業戦略と人事戦略にアンマッチがないようにしたい」
新卒・中途の採用者数を減らすこともなく、20~50代の現役世代の賃金を下げることもしない。