「性悪説」がオペレーションを磨く

【田中】あと、人材面でも日本とは事情が異なります。アメリカの場合、メガネの処方箋が必要で、オプトメトリストという高度な専門家でないと処方できない(※)。日本では公的な資格ではありませんが、アメリカでは大学卒業後、さらに4年制のオプトメトリーの大学で学び、卒業した後にやっと「ドクター・オブ・オプトメトリー」の称号が得られる公的な資格です。開業できるのは国家試験と州の試験に合格してから。この資格を取るのは医学の次に難しいと聞きます。

【窪田】すごくステータスが高いですよね。

【田中】ええ。平均年収も1200万~1500万円あたりといいます。それに、カリフォルニアは州法が厳しく、メガネ屋がオプトメトリストを雇うことはできない。メガネ屋が雇うと必要もない人にもメガネを買わせる処方箋をだしてしまいかねないからです。

【窪田】ライセンスを持ったオプトメトリストは、診療所や病院に勤めたり開業したりしますけど、あくまでも視機能の検査を行い、適切な処方箋を出すことが仕事ですからね。

【田中】ですからメガネを販売する法人とオプトメトリストが開業する法人に分けなければなりません。オプトメトリストが開業する会社についてもわれわれの恣意的な会社ではいけないのです。

【窪田】なるほど。完全に彼らの独立した地位を保障しなければいけないんですね。

【田中】そうです。そこにも細かいルールがたくさんあります。例えばドア。同じ場所で隣同士の法人でも、ドアが1つではダメなのです。2つなければそれぞれが独立した会社に見えないという理由です。ありとあらゆるところに存在するルールについて弁護士と相談していくうちに、コストがどんどんかさんでいくというわけです。

準備を進めていくと、アメリカで起業することが世界で勝つための土台となり、グローバルスタンダードになる理由がわかってきます。日本人は良きに計らえといった性善説に基づいて考えるところがありますよね。一人ひとりの能力も平均値が高いですし、悪いことをする人もわりと少ない。でも、アメリカは移民で成り立つ多民族国家ですから、個人個人がいろんな面で異質だし視点も違う。基本的に性悪説で物事のオペレーションを組み立てるから、オペレーションが磨かれていく。

だからあの国では、どこの国へ行ってもどんな人がやっても大丈夫というオペレーションをつくれるのですよね。そういう意味でいくと、われわれもアメリカに進出することによって、オペレーションがさらに磨かれて、他の国にも展開しやすくなるのではないかという可能性を感じています。

【窪田】まさにアメリカというのは世界の縮図ですから、ドイツ人も来ていれば、イギリス人も来ている。中国人も来ていれば、日本人も来ている。いわゆるミニグローバルみたいな世界がアメリカの中に形成されているわけです。人種のサラダボウルと言われるように、さまざまなバックグラウンドの人同士がどう 折り合いをつけて、いかに共通したオペレーションを成り立たせるかという仕組みができていれば、その中に含まれている人種や民族の国でも、通用しうることがわかるわけですね。

もちろん、ローカルにはローカルのルールもあるし細かい部分で違いはありますけど。概ねその人たちの民族性とかその人たちの考え方とか、どういうところに気をつけないとその人たちがうまくファンクションしないかということを全部押さえていますからね。

[脚注]
※医者が薬を処方するように、目の健康のためにコンタクトレンズやメガネそのものを処方するのがオプトメトリスト。