このように、街に溶け込む地味な大衆性こそ売れる粉もの店の共通項でもあるのだが、目だけは肥えている脱サラ開業者はどうしても無駄にお金をかけたオシャレ志向の店づくりに走りがちだという。
とくに陥りやすい罠は、店の玄関の演出法である。イメージしてほしい。白堤灯に“たこ焼き”と書くといかにも洗練された印象である。しかし、写真映りのいい店舗をつくっても客は入らない。「料金が高そう」と敬遠するのである。開店する場所の客層にもよるが、やはり赤提灯やのぼりの泥臭さこそ安心感と売り上げをアップさせる。入り口近くにビールケースを積み上げたり、鉄板で焼く煙をわざと噴き出すようなベタなアピール法も効果的である。
こうした客の心理を読解することが必要なのは店内でも同じこと。店員のエプロンがソースで汚れていても、本人は「屋台風の店ではこれも愛嬌のうち」と解釈するが、客はそれを不衛生と感じる。そんなちょっとしたギャップにも配慮できるかが売り上げ好調の秘訣となる。
さて、店づくりよりもやはり味が重要であることはいうまでもない。
「今や全国どこにでもコンビニや、ドーナツ、ハンバーガーのチェーン店が進出中です。そんなテークアウトの競合相手に勝つには、やはり味。粉ものが愛されるのはあの定番の味ゆえですが、食材や細かな調理法を進化させコクやうま味を磨かないと生き残れません。濃いソースや、肉・たこの大きさで誤摩化すのは時代遅れです」
ちなみに、森久保さんは魚粉やかつお節、昆布、山芋など“隠し味”研究をして、何回も食べたくなる究極の日本人のソウルフードであるたこ焼き・お好み焼きのミックス粉やダシ汁などを“弟子”に有料で配送している。
さらに、最も食感のいいお好み焼きのキャベツの千切りの細さは何センチか? ふわっと焼くには生地とキャベツなどをいかに混ぜて空気を入れ、パウダー化すればいいか? と試食を続ける。
たこ焼きに最適なタコとしてモロッコ産のタコを探し当てたのも、そうした過程でのことだ。下処理で1度茹でた後、鉄板で焼いて再び火を入れたときにちょうどいい噛み応えになるタコはこれしかなかった。森久保さんが経営する大阪・心斎橋近くにある粉ものメニュー中心の居酒屋は20坪(40席)の広さにして粗利は4割にのぼる。平均月商は900万以上だ。こうした結果が残せるのは、味へのこだわりがあってこそである。