民主主義の「原始的プロセス」

若新雄純(わかしん・ゆうじゅん)
人材・組織コンサルタント/慶應義塾大学特任助教
福井県若狭町生まれ。慶應義塾大学大学院修士課程(政策・メディア)修了。NEET株式会社代表取締役会長、鯖江市役所JK課プロデューサー。専門は産業・組織心理学とコミュニケーション論。様々な企業の人材・組織コンサルティングを行う一方で、全員がニートで取締役の「NEET株式会社」や女子高生が自治体改革を担う「鯖江市役所JK課」など、新しい働き方や組織づくりを模索・提案する実験的プロジェクトを多数企画・実施中。
若新ワールド
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代議制の導入が検討されるようになったのには、次のような経緯がありました。この会社は全員が取締役であり、さらに全員が平等に株を持つため、全員に等しく発言権や議決権があります。これはつまり、組織を統治できる機能が“全員参加”の直接民主制しかないということであり、事実上の「まとまらない組織」です。これは、一般的な組織ルールやヒエラルキーを一度撤廃して全部リセットしたところから始めてみたい、という思いから、あえて実験的に行ったことです。

僕自身にも、そして彼らにも、「自分の知らないところで枠組みが議論され決定されているという構造は嫌だ」という強いアンチテーゼがあったのだと思います。小さなことでも、当事者として関わりあっていたい。非常に非合理で、ある意味破壊的だと分かりつつも、まずは全てオープンで対等だという条件からスタートしてみたのです。

実際に直接民主制で物事を決めて進めていこうとするのは、めちゃくちゃに大変です。経験や価値観の全く違う若者同士、意見はバラバラだし、合意のポイントも人によって様々。日常的な会社業務を進めていくのは、現実的にほぼ不可能な状態です。しかし、いくつか仕事が形になってきたり、外部との連携などによってこれから会社の活動を活発にしていこうとしたりしている時に、会社としての意志決定がすぐにできず、衝突を繰り返しているのは、そろそろマズイ……という声もあがるようになってきたのです。

そこでメンバーへのヒアリングなどを重ねた結果、信任・信頼を得たメンバーによる間接民主的な代議機関を設置してはどうかと、僕から提案してみることになりました。この提案に興味があるメンバーで2カ月の準備期間を設け、どのような形態がいいのかを話し合い、いくつかのモデル案を出して、株主総会当日3時間に渡る議論の末、彼らはそれなりに納得したうえで6人の信任選出メンバーによる執行部を設け、試験的に運用していくことに決まったのです。

だったら、なぜ初めから代議制を導入しなかったのか、と思うかもしれません。小学校のクラスでさえ学級委員やクラス委員会なるものが存在し、委員による代議制を採用しているではないか。価値観の違う多数のメンバーが一斉に議論すればまとまるものもまとまらないのは、分かり切ったことではないか……、と。

でも僕たちには、この「原始的プロセス」が必要でした。心をすり減らすような体験や遠回りな議論があったからこそ、選出メンバーに求める役割や期待が明確になり、その他のメンバーに求められる態度や関わり方なども、それなりの納得感をもって会社全体で共有されるようになってきました。これは大げさに言えば、まさに近代において民主主義が発展してきた過程そのものだったのだと思います。

「民主主義」という言葉を調べてみると、「国家など集団の意思決定権をその構成者が個々に有し、その構成者の合意に基づいて執り行われる体制のことである」とあります。その歴史は、メンバー全員が意思決定し合意する、ということから、まずは全員が等しく意見し参加する直接民主制を理想として試行錯誤しながらも、意思決定や執行の効率を高め、次第に間接民主制などを効果的に採用することで、体系的に発展してきたようです。

大事なのは、その結果にたどり着くまでの「試行錯誤」の段階になにがあったのか、ということだと思います。当然、妥協したり淘汰されたりするものもたくさんあったわけです。その過程をなにも知らずして、体験せずして間接的な権利を与えられても、「民主的制度の構成者の1人」になどなれるわけがありません。当事者として主体的に関わる、なんていうのは、それくらい難しいことだと思うのです。