「策略はみだりに用いるべきではない」

守屋 淳氏

日本を代表するヒーロー、ウルトラマンの戦いは、3分以内の短期決戦。いかなる強敵も、最後は伝家の宝刀・スペシウム光線で決着をつける――これほど強力な必殺技があれば、敢えて知恵を絞る必要もなく、実にヒーローらしい戦いぶりだ。

しかし、現実のビジネス世界では、どんな敵にも通用するような必殺技は見出しにくい。だから、知恵を絞って戦略を練り、臨機応変にことに当たる必要がある。ときには正攻法でない策略を要する場面もあろう。

戦略・戦術書の二大古典『孫子』と『戦争論』を座右の書として成功を収めた人物は少なくないが、この2書は策略についてどう述べているか。一言でいえば「取扱注意」だ。策略はみだりに用いるべきではなく、応分の備えと心得が必要だという。

まず、『孫子』である。約2500年前、紀元前500年前後に活躍した中国の兵法家、孫武の著作とされる同書には「兵は詭道なり」(戦いは、だまし合い)という有名な言葉がある。

孫武の生きた春秋時代は、群雄割拠でまわりはライバルだらけ。油断をすれば寝首をかかれ、戦略をひとつ間違えば国が滅ぶ。そのような状況下では、戦争をするほど国力が削がれるので、無用な戦いは避け、戦わなければならないときは短期決戦で臨むのがよいとしている。

「正を以(もっ)て合し、奇を以(もっ)て勝つ」という言葉もよく知られている。敵と対峙するときは正攻法を用い、敵を破るときには奇襲戦法を使うという意味である。また、自軍を絶対不敗の態勢におき、敵の隙を逃さずに攻めるのが戦上手だとも言っている。

つまり、相手と力が拮抗し、警戒し合っている状態では、裏をかくのは難しい。体力と態勢の維持を優先して時を待ち、相手の力に綻びが見えた瞬間に策略は功を奏するというのである。