「先祖の墓」の歴史は浅い

時代ということで考えると、日本では80年代から管理する人がいない墓、いわゆる“無縁墓”の問題が広がっている。家墓が広まった当時の日本は、農業中心で親戚一同が1カ所に定住していた。そのようなスタイルだからこそ継承・管理に無理がなかった家墓だが、現在は都市部に人が流れ、親戚一同が近隣に住む家族のほうが希少だろう。また、核家族化が進み、家意識が薄らぐのと同時に、生涯結婚しない人や、離婚してシングルになる人、さらには結婚しても子どもを持たない人など、さまざまな理由から家墓の継承者がいないケースも増えてきた。少子高齢化が進み、死者の数は増える一方なのに、葬儀や墓の担い手となる若者はどんどん少なくなっている。その結果、親元を離れた子どもが故郷の墓を撤去して自分の身近に引っ越しをする“改葬”も増えている。今、“家墓”の限界がきているとはいえないだろうか。

グラフを拡大
先祖の墓を守り供養するのは子孫の義務である

日本の現状はどうあれ、「自分は長男だから先祖の墓を守らなくてはいけない」。逆に、「次男だから自分で新たに墓を作らなくてはいけない」と考える人もいるだろう。しかし小谷は、これも私たちの思い込みだという。

「こういった考えは、日本人の家意識が高かった一時代の名残です。たしかに明治時代には『先祖供養は子孫の義務である』とされていましたが、戦後には『慣習に従って祖先の祭祀を主宰すべき者がこれを継承する』と民法で改正されています。つまり、長男だからといって実家の墓に入る必要もなければ、次男や結婚して苗字が変わった女性だからといって実家の墓に入れない理由もない。もちろん、血縁関係のない友人と同じ墓に入ることも可能です。墓は慣習に従って“できる人が継承する”のが今のルール。とはいえ、その“できる人”がいなくなったのが近年の問題の元凶なんです」

どうやら私たちの葬祭や埋葬に対する感覚は、時代の流れに追いつけず、かなりレトロな段階で止まっているらしい。井上は、「正しい知識が、多くの死後の悩みを解消する」という。