かつて工業製品が主体だったメード・イン・ニッポン。今やカニカマからコンドームまで多岐にわたって世界中の人に愛されている。
「温める」と「冷やす」で、海外市場を席巻しているのが小林製薬。同社の海外事業の歴史は70年頃、当時アメリカ領だった沖縄へ「アンメルツ」を輸出したことから始まる。
現在、海外事業の大きな市場となっているのが、中国・東南アジア。なかでも中国で圧倒的なシェアを誇るのが携帯カイロ「暖宝宝」だ。03年に進出した当初は、カイロそのものの認知度が低く、一部の高級品な輸入品という扱いだった。意外なことに、カイロを持ち歩く習慣も日本独自のスタイルなのである。
しかし、中国には温暖の差が激しい地域が多く、カイロの潜在ニーズは高いと判断。日常使いの消耗品として普及させるべく、同社が行ったのが有名タレントを使ったテレビCMなどの販促キャンペーンだった。さらに通年での使用を喚起させるために、患部を温める腰や関節用の治療用の商品も投入した。
「日本と同じようにレジ横など買いやすい場所にディスプレーするマーケティングを実施。“暖宝宝”というわかりやすいネーミングや高級感のあるメタリックなパッケージも功を奏した」と広報部の西片朋子氏は語る。いまや上海での認知度は90%を達成、「暖宝宝」はカイロの代名詞にまでなっている。
現在、カイロは約20カ国で販売され、売上高はトータルで約145億円。グループ全体でカイロの売り上げの約50%のシェアを獲得した北米では、スポーツ観戦時に欠かせないアイテムとなっている。
一方、東南アジアなどの常夏の国々に向けては、額に貼る熱冷却シートで攻勢をかける。ところが、東南アジアでは発熱時に額を冷やす習慣がないため、こちらもCMやサンプリングなどで使い方を啓蒙。その後、段階的に発熱だけでなく、暑さ対策やリフレッシュ時にといった多様な使い方のシーンも提案し、今年3月までに約2億万枚を売り上げた。
欧州も同様に発熱時は薬を使用する傾向があり、日本のように頭を冷やす習慣がない。そこで欧州では偏頭痛対策品と位置づけ、イギリスを中心に数字を伸ばした。現在、世界約20カ国で販売し、ブランドシリーズ売り上げ全体の半分以上が海外というグローバルブランドに成長している。
いずれも各国の市場にそれまで存在していなかった新カテゴリーの商品だが、それぞれの生活習慣に根ざした商品特性や使い方の広報活動により訴求を徹底させた結果、見事に現地に浸透していったのである。