リサーチを重ねれば重ねるほど、タイのペットライフの深刻な問題点が見えてきた。一緒に暮らせるコンドミニアムもなければ、獣医の資格制度もない。ペットを預けようにも狭いケージのペットホテルがあるばかり。公園は原則、犬を連れていくことが許されず、飼い主は散歩場所が見つからずに困り果てている。ペット周りのサービス全てがお粗末の一言だ。山内氏はフォーリトルワンカンパニーを設立し、小型犬に絞ったペットショップ「トウィンクル」をオープンさせた。

コンテストで入賞経験を持つグルーマーによるグルーミング、煩雑なペットの帰国手続き代行サービス、ペットがストレスなく滞在できるケージレスホテルやカフェ、生後3カ月までは親兄弟と暮らし、その後に引き渡す欧米スタイルを取り入れた子犬の販売システム、常駐する日本人獣医師による安心安全な医療。明るく清潔な店に導入された機能とサービスはどれも、これまでのタイにはなかったものだ。

と、ここまでなら単なるペットショップ事業だが、山内氏はもっと先を見据えている。すでにデベロッパーやオーナーと共同でペットと住めるコンドミニアムの開発に着手。4件の設計、建築に関わり、管理物件は150件に達している。ペットフレンドリーなショッピングモールのプロジェクトも進行中だ。人気薄の物件の屋上にドッグランを設け、ペットを飼えるように改修したコンドミニアムは空き室待ちの状態が続いている。「快適なペットライフ」を約束する新築・中古の住宅が増えれば、タイの不動産相場にも影響を与えることは必至だろう。

14年5月には東大獣医学出身の獣医が常駐するペット病院も開業する。ペットショップ、ペット不動産、ペット医療サービス。3本の柱を推し進めると同時に、タイに進出する日系企業のアドバイザーも務めている山内氏は、現状を次のように指摘する。

「マーケットを甘く見ていて、現地パートナーに乗っ取られるケースが増えています。客の90%が日本人という店や企業は長続きしない。価格の違いをタイ人に認めてもらう事業計画や人材育成の必要がありますね。とはいえ、タイにはまだタイ人が困っているニッチなマーケットがたくさんある。ここでオンリーワンになれば一気に参入障壁は低くなる。投資コストも低いので、起業家にとってはいい環境ですよ」