我々の住む地球がいつできあがったのかは、古来より大きな関心事であった。地球誕生は46億年もの大昔であることがわかったのは、20世紀になってからである。本書は地球が生まれて以来の歴史を、地球科学研究の第一人者がわかりやすく解説したものである。
地球の歴史は環境変動の歴史でもある。地球は小惑星の衝突など、幾度となく劇的な変動に見舞われてきた。壊滅的な状態からそのたびに回復し、何億年もかかって現在の安定した状態へ移行したのである。
たとえば、46億年前の初期地球は、灼熱のマグマの海だった。それが長い年月を経て、厚い大気の層と穏やかな海をもつ「水惑星」になった。地球は太陽系中の数ある惑星の中でも、唯一の安定した環境をもつ星である。そのお陰で生命が誕生し、人類まで進化を遂げたのだ。
地球上に夥しい種類の生物種が宿るまでには、いくつもの好条件が満たされなければならなかった。現在の環境を得る過程では、数多くの幸運な偶然が重なってきた。地球全体が凍結したスノーボールアース(雪玉地球)などの大事件を乗り越えて、次第に穏やかな環境になったのだ。ここへ向かう長い道のりに秘められた不思議なドラマが、まさに本書の主題である。
全地球史をふり返ってみると、環境変化にはある特有のリズムがあったこともわかってきた。氷期と氷期のあいだにある間氷期のサイクルなどがいい例である。これらの原因は、地球の内部で起きているマグマの活動リズムだけでなく、太陽の運動も密接に関わっている。
地球史は地球だけを見るのではなく、月をはじめ、太陽系のメンバーである火星や金星などの惑星を研究することからも解明されてきた。本書には、この現場に携わった研究者の興味深いエピソードが紹介されている。
現在、世界的な課題とされている地球温暖化問題には、壮大なパラドックスがある。世間では短期的には温暖化が心配されているが、長期的に地球は氷河期へ向かっており、火山噴火による気温低下もしばしば観測されている。いったい地球は、温暖化するのか、それとも寒冷化するのか? その問題に対する決着はついていないのだが、過去の地球上の事実に即して冷静に検討しなければならない。
科学は予測と制御の学問である。単に現状を説明するだけではなく、そこから導かれる一般化を通じて、将来を予見する力をもつ。地球環境問題の多くは政治や経済の文脈で語られることが多いのだが、現在まで知られている長期間の事実をもとに将来を予測する必要がある。
「人類の歴史は短い。人の一生はなおさら短い。だからこそ、人類は歴史に学ぶ知恵を大切にすべきなのだ。過去の地球から未来を学ぶ。いまこそ人類はその重要性に気がつくべきであろう」(217ページ)。地球の変動史は未来を解くもっとも重要な鍵なのである。