ホワイトハウス内部で飯島氏が見たものは

7月中旬、岸田文雄首相の米国・ドイツ訪問に同行してきた。東京都知事選とパリ五輪の間だったためか、日本では岸田首相の動向はほとんど話題にならなかったが、今回もいろいろなことがあった。

前半の米国訪問は、北大西洋条約機構(NATO)首脳会合への出席が主な目的だった。会合が行われたのは、米大統領選に向けたテレビ討論会での不調を理由にバイデン大統領の撤退論が広がっていた時期にあたり、日程終了後にはトランプ前大統領への銃撃事件が発生した。会議に集中するのも大変だったと思う。

ワシントンは緊迫した空気が漂っていて、会議の警備もいつになく厳重だった。議場などに同行できる随行員の人数も限定されていたので、空き時間ができた私は米国政府内の知人を頼って、ホワイトハウス内の職員専用売店に連れていってもらった。見学者コースにある一般向けの土産物店では手に入らない公式グッズがあると聞いて、以前から一度行ってみたいと思っていたのである。看板もない小さな店舗で、職員以外にはほとんど知られていないレアスポットだ。紹介者がいても、入室申請のために何枚もの書類にサインして、ようやく入ることができた。

念願の売店に入ってみると、なぜかバイデン大統領のグッズがほとんどなかった。ハリス副大統領やトランプ前大統領の名前が入ったボールペンやバインダーはあるのに、現職大統領のグッズは少ない。私が行ったときは、バイデン大統領はまだ大統領選撤退を表明しておらず、ハリス副大統領が候補者として一本化される動きなどまったく見えていなかったが、ホワイトハウス内部では撤退は既定路線だったのだろうか。単に在庫切れのタイミングだった可能性もあるが、いま振り返ってみると興味深いものがある。

今回のNATO首脳会合では、岸田首相は日本をとりまく状況を国際社会に説明し、ともに課題解決を訴えることができたと思う。会合の内容を少し紹介したい。

岸田首相が参加したのは、NATO加盟国32カ国と、招待を受けたパートナー国・機関(日本、オーストラリア、ニュージーランド、韓国、EU)の首脳が集まるパートナー・セッション。日本は準加盟国のような扱いで、岸田首相も就任以来、毎年出席している。

岸田首相は、一昨年、昨年と同様に「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」との強い危機感を表明し、欧州・大西洋とインド太平洋の安全保障は不可分であると述べ、多くの首脳がインド太平洋への関心と関与を高めていることを歓迎した。また、日本が非大西洋の国として初めてウクライナとの二国間文書に署名し、ウクライナの問題は、国際社会全体の問題であることを示した。ロシアと北朝鮮の軍事協力、(中国による)東・南シナ海における力による一方的な現状変更の試みなど、インド太平洋地域における懸念について述べ、NATO加盟国をはじめとする同志国との連携強化を進め、法の支配に基づく自由で開かれた国際秩序の維持・強化に向けて努力していくことを主張した。

ショルツ首相との共同会見が大変だった

出張の後半はドイツである。ドイツは現在、多数の政党の勢力が拮抗していて、不安定な状況にある。ショルツ首相を支える連立与党は首相の出身政党である社民党と、緑の党、自由民主党(FDP)の3党。ロシアのウクライナ侵攻後、安全保障やエネルギーの政策転換を迫られる中、難民受け入れ問題なども背景に支持率の低下が続いている。6月の世論調査では社民党の支持率は14%で、メルケル前首相時代に与党だったキリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)の支持率31%の半分にも満たないのだ。

隣国のフランスでは欧州議会選挙で極右政党が台頭し、マクロン大統領が解散・総選挙に踏み切ったところ、与党の中道連合が敗れて、左派連合が勝利したことは記憶に新しい。英国も総選挙で野党の労働党が勝利して政権交代が起きた。ドイツでも極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の支持率が上昇しており、9月に選挙が行われる旧東独地域では30%を超えて1位になるなど、秋に政局が大きく動きそうだ。ドイツの与党3党は7月になんとか予算案に合意し、9月までは連立継続できる見込みだが、今の岸田内閣など問題にならないほどの不安定な状況にあることは間違いない。

政権交代に慣れている欧米諸国の場合、政権を担う政党が変わっても、国際社会や外国との交渉はそのまま引き継がれ、方針が変わることはない。そんなことをしたら、国際的な信用が失われるからである。だから、ドイツのショルツ政権が不安定だったとしても、今回の首脳会談での決定事項が失われることはない。自民党が長年積み上げてきた外交の成果を民主党政権がひっくり返したことを思い返すと、日本とはずいぶん違うなと驚くばかりだ。

(写真=時事通信フォト)

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