他方、デモグラフィー型の多様性がマイナスの影響を組織に及ぼす理由は、2つの組織理論で説明できます。1つはソーシャルネットワーク研究でよく使われる「ホモフィリー」理論です。これは「人は同じような属性を持った人とつながりやすい」という考えです。性別でいえば、同じ組織の中でも男性社員は他の男性社員とつながりやすく(人脈をつくりやすく)、女性社員は他の女性社員とつながりやすい、ということです。

多くの日本企業では男性が多数派ですから、男性のホモフィリー人脈だけが厚くなり、女性はなかなかそこに入り込めません。そして、その人脈の中だけで、人事のようなインフォーマルで重要な社内情報が飛び交いますから、女性は自然に“情報敗者”になりがちなのです。せっかく活躍を期待されて入った女性でも、情報面で不利になれば、思ったような活動はしにくくなるでしょう。

もう1つ、社会心理学の「ソーシャル・カテゴリー」理論でも似たような説明ができます。同理論によると、組織のメンバーに目に見える属性の違いがあった場合、メンバーそれぞれに、「自分と同じ属性のメンバー」と「それ以外」を分類する心理作用が働き、同じ属性を持ったメンバー同士の交流のみが深まってしまうのです。そうなると、いつの間にか、男性は男性だけ、女性は女性だけ、あるいは外国人は外国人だけで固まり、「男性vs女性」「日本人vs外国人」といった軋轢が生まれ、組織のパフォーマンスを停滞させてしまうのです。

数値目標だけでは失敗する理由

では、これまでの議論を踏まえて、「日本人の男性」が支配的な多くの日本企業ではダイバーシティ経営をどう進めるべきなのか、私論をお話ししましょう。

まず重要なのは、「組織で求められている多様性がタスク型なのか、デモグラフィー型なのか」をはっきりさせることではないでしょうか。ダイバーシティというと、どうしてもデモグラフィー型を意識しがちです。そしてそのときには「女性ならではの視点」「外国人ならではの感性」といったお題目が理由に使われがちです。しかし、「女性・外国人ならではの視点」とは具体的に何なのか、本当に女性・外国人を加えれば効果的に多様化できるのかを深く考えてみることが重要です。

実際、多くの日本企業に求められているのは、そのような「女性や外国人だけが持っている視点」かもしれません。もし、そうであれば女性や外国人を加えることで「タスク型の多様性」を高められるかもしれません。しかし、組織がどのような「タスク型の多様性」を期待しているかをはっきりさせないまま、安直に数値目標だけで女性・外国人を増やすと、「デモグラフィー型の多様性」の負の効果だけが顕在化しかねないのです。