記憶は単独の知識では成立せずに、連合によって有意義なものになります。そして連合性の高い情報であるほど、記憶しやすいのです。

前知識を持っていると物事を覚えやすいのも記憶の連合性が働くからです。

たとえば車の車種を覚える場合、車に興味のある人とまったくない人では「入りやすさ」が全然違う。車に興味がなくて、車の知識もない人は丸暗記するしかありません。しかし、車が好きで前知識がある人は「去年のプリウスはこういう形だったから、ここをマイナーチェンジしたんだ」とすっと頭に入ってくる。

記憶力はその人が持っている過去の情報量に左右されるのです。事前情報が多いほど関連付けて覚えられるので、記憶が楽になるわけです。

クラスの頭のいい子が、何でも一度で覚えてしまったり、授業を聞いただけでマスターしてしまったりすると聞くと、「記憶の天才に違いない。うちの子にはとてもまねできない」と思いがちですが、実は事前知識の蓄積の差ということもあるのです。

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「勉強量と学習効果」の関係

大河ドラマや時代劇を見ている子が歴史の暗記が得意だったり、本好きな子が漢字に強かったりする。文部科学省の全国学力テストでも、美術館に行ったり新聞を購読したりしている家庭の子のほうが学力が高い傾向があります。文化的な経験をさせることが学校での学習の助けとなっていることを考えれば当然の結果といえます。文化的な刺激に触れることで、その分野に興味を持てば、前知識を拾いやすくなって、それが記憶につながっていく。そんないい循環を生むのです。

記憶というのは最初が一番大変です。まったく何もない状態から覚えなければいけないからです。

しかし、その苦労はずっと続くわけではなくて、ある一定のレベルに達すると、いろいろな知識と連合して覚えやすくなる。「勉強量と学習効果」の関係(図を参照)と同じで、記憶が楽になるところまで頑張れるかどうか、なのです。

池谷裕二
1970年、静岡県生まれ。薬学博士。東京大学大学院薬学系研究科准教授。『自分では気づかない、ココロの盲点』『脳には妙なクセがある』など著書多数。
(小川 剛=構成)
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子供たちよ、英語のまえに国語を勉強せよ。