「白い船」だけが主役と思いきや…
さて、さらに少し難易度を上げた作品を見てみます。
図表5は《解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号、1838年》という作品です。
この作品の主役は何でしょうか?
これは少し難易度の高い問いかけです。
一見すると、画面のやや左手に描かれた、白の船と思うでしょうか。
そう思ったあなた、惜しいです! この絵画の主役はそれだけではないのです。
この作品を見ると、二つにざっくりと色彩が分かれていることがわかります。
左下には青っぽい空の中に黒と白の船が、そして右上には夕日のように見える太陽の光がオレンジ色の中の白色で表されています。
色彩の対比により、どちらの要素も目を引きます。そして、中心から少し離れてはいますが、どちらも中心近くに大きく描かれています。そう、船と夕日のどちらもがこの絵画の主役なのです。
この絵画を少し解説すると、この絵画はイギリスの画家ウィリアム・ターナーの作品です。テメレール号というイギリスの海軍で大活躍した船が、役目を終え解体されるために、別の船によって曳かれていくところが描かれています。タイトル《解体されるために最後の停泊地に曳かれてゆく戦艦テメレール号、1838年》から、それがわかります。
テメレール号は自然の風を使って動く帆船で、この絵画の中で白い姿で船体が描かれています。その手前に描かれている黒い船は、解体場までテメレール号を引っ張る蒸気船です。
実際には夜明けの場面だったそうですが、ターナーは夕日に見えるようにこの出来事を描きました。
船が小さく、中心から外れて描かれている理由
さて、ターナーが船と夕日の二つを主役としてわざわざ描いた理由は何でしょうか? 描き方から、どんな考えが導き出せるでしょうか?
例えば彼が船の姿を鮮明に描きたかったのであれば、船を中心にしてもっと大きく描いたことでしょう。この絵画では、わざわざ彼は船の姿をかなり小さくして、夕日の空と同じくらいの領域でのみ描いています。
逆に夕日の美しさを描きたいのであれば、彼は夕日をもっと中心に大きく描いたことでしょう。
しかし、彼はどちらも同程度の大きさで描きました。
ここからわかるのは、船と夕日は同じくらい重要だということです。ではなぜ重要なのか。


