東急ハンズのバイヤーの目に留まった

会社としても、本流は洋酒で除菌剤は傍流。パストリーゼの認知拡大にはそれほど力を入れておらず、渡邉さんは「発売から数年は細々と売れていた程度だった」と語る。

それでも、噴霧後に白い跡が残らないよう成分を改良したり、生産設備を増強したりと開発・製造面では工夫を続け、やがて製菓業界で高い評価を確立。97年には、洋菓子店の「1Lボトルでは重くて拭き掃除に使いにくい」という声を受けて、取っ手付きの500mLボトルをラインナップに加えた。

これが潮目を大きく変えた。従来品と同じく業務用のつもりで発売したものが、家庭でも使いやすいサイズだったことから東急ハンズのバイヤーの目に留まり、思いがけず家庭向け市場に参入することになったのだ。

ハンズ店頭に並び始めると、機能だけでなくシンプルな英字デザインのボトルもおしゃれだと評判に。インターネットの普及とともに個人ブログなどでも取り上げられるようになり、徐々に家庭に浸透していった。以降、パストリーゼは業務用と家庭用の両輪で快進撃を続けることになる。

ドーバー洋酒貿易 業務統括部 営業企画課課長代理 田島理恵さん
撮影=プレジデントオンライン編集部
ドーバー洋酒貿易 業務統括部 営業企画課課長代理 田島理恵さん

一般向けの広告は出したことがない

新市場の獲得と歩みを合わせるようにして、2002年には開発面でも大きな一歩を踏み出す。除菌・抗菌効果がより長持ちするようにと緑茶カテキンを配合し、新たな除菌方法として特許を取得。これが現在まで続く“パストリーゼの完成形”となった。

「最初はクエン酸という案もあったそうですが、それではパティシエの方の包丁などがさびてしまう。調理や味に影響が出ないようにと試行錯誤して、最終的にカテキンに落ち着きました」(渡邉さん)

すると、その翌年からSARSや新型鳥インフルエンザなどによって需要が急増。05年に兵庫県三田市に新工場を建ててパストリーゼ専用プラントを新設すると、数年後に2度目のブレイクスルーが訪れる。掃除好きで知られる有名芸人が、TV番組でパストリーゼを愛用品として紹介したのだ。

これをきっかけに雑誌やSNSでも評判が広がり、丁寧な暮らし方やミニマリスト的なライフスタイルの流行と相まって、ついにはパストリーゼの使い方を特集した書籍まで発刊された。同社が企画を持ち込んだのではなく、編集者から提案があったという。田島さんは「パストリーゼだけで本ができる日がくるなんて、と信じられない気持ちでした」と振り返る。

しかも、同社ではここまで一度も一般向けの広告を打っていない。製菓関連の業界誌には洋酒とともにパストリーゼの広告も掲載していたが、それはあくまでもプロ向けだ。にもかかわらず一般に広まったのは、衛生用品としては珍しい例と言えるだろう。