市場参加者の「合理的予想」とはなにか
さらに、市場参加者が経済合理性を持って行動していることも効率的市場のもう1つの前提条件である。市場参加者が資産運用によって利益を得ようとすれば、過去において予想が外れてキャピタルロスを被ったことがあれば、そのことを反省材料にして、過去に犯した同じ過ちを繰り返さないように努めるだろう。とりわけ、常に予想の外れ方に一定のバイアスと呼ばれるのゆがみがあれば、合理的な市場参加者はそのバイアスを取り除くよう、将来価格の予想形成を改善しようと努める。その結果として、市場参加者の予想の外れ方にはバイアスがなくなってくるはずである。このように、市場参加者の合理性を持った行動の結果として行動バイアスがないことが効率的市場の前提となる。
市場参加者の合理性に関連して、将来の資産価格を予想するに際して、市場参加者は利用可能な情報をすべて利用して将来の資産価格を予想することも前提となる。このような予想形成を「合理的予想」と呼ぶ。市場参加者は、このような合理的予想に基づいて、将来の資産価格を予想する。ここで言う「利用可能な情報」のなかには、過去と現在の資産価格に関する情報のみならず、将来の資産価格が過去と現在の資産価格とどのような関係があるか、そして、資産価格を決定する諸要因と資産価格との関係、すなわち、資産価格決定モデル、および、それらの資産価格の決定要因について、将来の値が過去と現在の値とどのような関係があるか、が含まれる。
「利用可能な情報」を過去と現在の資産価格が将来の資産価格とどのような関係があるかという情報に限定して、過去と現在の資産価格の情報のみから将来の資産価格を予想する状況における市場の効率性は「弱い意味での」市場の効率性と呼ばれる。それは、チャート(罫線表)を利用した市場参加者(いわゆる、チャーティスト)の予想形成に近い。もし資産価格決定モデルを考慮に入れて、資産価格自体の過去から現在までの情報のみならず、資産価格を決定する他の情報が市場参加者にとって利用できるならば、合理的な市場参加者であれば、これらの情報を利用するはずである。