「いや、まだまだ怖いです」
――これから5年間、どんな研究を進めていきますか。
【前野】まず、「バッタ防除に向けた新しい技術」をかたちにしていきたいです。自分が「バッタの被害に遭っているアフリカの人を救いたい」と言ってること、ホラだと思われてるかもしれないんですけど、これは自分がバッタ研究を続けていく大義名分であり、使命だと思ってますんで、きちっとやりたい。
2つめは、まだ知られていないバッタの生態を明らかにしていきたい。これは実験室でしか研究していない人たちへのメッセージでもあるんです。ほんとうのバッタはこういうことをしているんだよ、と、動画や写真で伝えたい。「あれっ? うちらが研究していたのは何だったんだ?」と気づく人がいっぱいいると思うんです。
あと、研究活動で同じことを証明するんだったら、自分は、小学生でも再現できるようなシンプルな方法でやりたいんです。「あっ、自分も研究者になれるかも」と思ってもらえるような。ファーブルの時代と同じような、物に頼らない研究であれば、(器材に恵まれていない)アフリカの研究者も勇気づけられるんです。
――連載で書かれていた、50円でつくった記録装置の話ですね(第4回《道具がない!——手づくりの武器で闘え》 http://president.jp/articles/-/10032)。
【前野】はい、ちびっこの夏休みの自由研究も、論文になる可能性はじゅうぶんあるんです。「工夫するといろんなことができるんだ」とわかってもらえると、研究や研究者というものに親しみを持ってもらえると思うんです。
――これからの5年間、研究者としての数値目標はありますか。
【前野】あります(ニヤリ)。5年で最低でも30本の論文を書きたいです。白眉の環境に身を置かせてもらって、これくらい出さなきゃ申しわけないというのもありますし、この3年間でコツがわかってきたというか、乗りに乗ってきている自分がいるので。研究者としては「Nature」のようなトップジャーナル(学術雑誌)に論文が載ったことがないという不安があったんですが、今、何個かいけるんじゃないかという研究のネタが手元にあるので、トップジャーナルも目指したいです。そういうものに載ったということが、たとえばヤフーニュースに載れば「あっ、バッタ博士の発見が載っている!」「わたしの知ってるバッタ博士が、すごい発見をしたんだ!」と喜んでもらえる。ほんとうはそれをここまでの3年でやりたかったんですけど、できなくて悔しかったことでもあるので。
――5年経てば白眉の任期も終わります。また無収入になるかもしれない。でも、もう怖くはない?
【前野】いや、まだまだ怖いです。でも、白眉は5年の任期付きだということで、また必死こいてやることになる。それがすごくいいことだと思ってます。論文を出したいという思いと、出さなきゃいけないというプレッシャー、両方あるとより気合いを入れて集中してやれると思うので。
インタビュー収録の翌日、白眉内定式、そして研究計画発表会に参加するべく、バッタ博士は京都に向かった。編集部はそこで博士がやらかすのを目撃した。