息子からのメールが背中を押した
私はといえば、あまりにも突然の辞任劇に何をすればいいのか途方に暮れていた。「これでは誤った情報が残ってしまう」と危機感を覚えながらも、蟷螂の斧状態だった私の背中を押したのは息子からのメールだった。
私は、鈴木さんと出会ったのと同じ頃、世界的経営学者の野中郁次郎・一橋大学大学院教授(後に名誉教授、昨年逝去)とビジネス誌で、日本企業・組織のイノベーション事例を紹介する連載を始めていた。野中先生は、現代の経営者の中で、鈴木さんを稲盛さんとともに最も高く評価していた。一時期、セブン&アイHDの社外取締役も務めた。
そこで、私は、鈴木さんと野中先生に「先生役」になってもらい、当時高校生だった私の息子に対し、「もし君がセブン‐イレブンで働くことになったら」という想定で、父親として経営学を語る『セブン‐イレブンの「16歳からの経営学」』(宝島社)という本を出したことがあった。これを読んで鈴木さんの経営学に興味を持った息子は本当にセブン‐イレブンに就職。その後、事情があって退職し、当時、オーストラリアにいた。
海外にいた分、冷静かつ客観的に見ることができたのだろう、息子からのメールは退任劇の本質を見事に見抜いていた。一瞬にして視界が開け、意を強くした私は、自分の知る真実をプレジデント誌に寄稿した。
退任劇の真実
鈴木さんは、早くからネットとリアルの融合を提唱し、オムニチャネル化を推進していた。コンビニ、スーパー、百貨店、各種専門店、レストランなど、グループ内のあらゆる業態が扱う商品について、24時間、いつでもどこにいてもネット上で買い物ができ、セブン‐イレブンのリアル店舗網で受け取りができる。それがオムニチャネルだった。
鈴木さんはこのオムニチャネルについて、顧客の利便性の向上を図ると同時に、グループ各社が協力することで、自分がリタイア後の求心力の核になることも想定していた。
ただ、当時のSEJ社長はオムニチャネルへの関心が高いとはいえなかった。そこで、プレジデントへの寄稿では、鈴木さんが退任を求めたのは「顧客起点」「未来起点」の基本原則に沿ったものであり、一方、社外取締役による反対論は「会社起点」「過去の延長線上」のものであると指摘した。

