「仕事でミス連発、どうすれば?」への明快回答

以前、プレジデント誌で鈴木さんと京セラ創業者の稲盛和夫さんの対談を行ったことがあった。両者は同じ昭和7年の生まれで、個人的にも親しい間柄だったが、対談は初めてで、私が進行役と構成を任された。

「プレジデント」2015年10月5日号で対談した稲盛和夫氏と鈴木敏文氏。「読者の悩み」に対し別アングルの回答が飛び出した
撮影=本浪隆弘
『プレジデント』2015年10月5日号で対談した稲盛和夫氏と鈴木敏文氏。「読者の悩み」に対し別アングルの回答が飛び出した

対談中、読者の質問に答えてもらう企画があった。「仕事でミスを連発してしまいます。どうすればいいか」という質問。稲盛さんの回答は「無意注意ではなく有意注意で仕事をせよ」。つまり、集中して取り組め。一方、鈴木さんは一言、「ミスしたことは早く忘れろ」だった。人間、ミスしたことはなかなか頭から離れない。そのままでは前に進めない。だから、早く忘れて、次に何をすべきかを自分の頭で考えさせ、一歩前に踏み出させる。理論派の稲盛さんに対し、実務派の鈴木さんらしい人間心理に根ざした回答だった。

セブン‐イレブンの各店舗でも、発注分担といって、学生アルバイトにも弁当類など、メインの商品の発注を任せる。

学生アルバイトも、天気予報や地域の行事予定など(先行情報と呼ばれる)から、自分で考えて、明日の売れ筋商品の仮説を立て、積極的に発注し、結果をPOS(販売時点情報管理)システムで検証するという「仮説・検証」のサイクルを回していく。そのため、実際、「セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語るようになる」といわれた。

仮説を立てる際の基本が「顧客の立場で」考える「顧客起点」と、未来が今を決める「未来起点」の発想だ。

突然の退任劇に掌返しのメディア

学生アルバイトも実践するこの発想がセブン&アイ・ホールディングスの社外取締役には通用しなかった結果、起きたのが2016年の突然の退任劇だった。退任劇は、SEJの社長の退任を求める鈴木さんの人事案に社外取締役が反対したことに始まる。SEJが5年連続増収増益を実現した実績をもとにした反対論だった。

メディアでは、鈴木さんがセブン&アイHDの取締役執行役員CIO(最高情報責任者)に就いていた次男の康弘氏を自分の後継に据えようと考えているとの根拠なき噂が広まっていた。経済紙で鈴木流経営を賞賛していた流通担当さえ掌を返したように世襲説を肯定する有様だった。

康弘氏は、富士通のシステムエンジニアから孫正義氏に誘われてソフトバンクに移り、書籍のネット通販をセブン‐イレブンの店舗で受け取るビジネスを起業した。その後、IT企業より、流通企業を基盤にしたほうが成長性があると判断して、セブン&アイグループ入りを選ぶ。以来、グループ内でネットビジネスを牽引していた。

鈴木さんは、「息子はあくまでも技術者」と一貫して世襲説を否定し、私も何度もそう聞いていた。しかし、メディアでは鈴木さんの人事案と世襲説を結びつけるネガティブな論調が横行していた。