印刷直前に原稿にNGが出た…

このエピソードで注目すべきは、鈴木さんが総経理にNGを出すとき、具体的な問題点を言わなかったことだ。実は私も同様に鈴木さんからNGを出されたことがあった。

鈴木敏文氏
撮影=大沢尚芳

私が書いた鈴木本の中に、図解と簡潔な文章で鈴木流経営学を解くムック本『なぜ、セブンでバイトをすると3カ月で経営学を語れるのか』(プレジデント社)がある。「入門編」に続き、セブン‐イレブンの優良店舗を取材し、それぞれになぜ好業績を上げられるのか、取り組みを紹介する「実践ストーリー編」を出版したときの話だ。

校正もすみ、あと3時間後に印刷機が回り始めるというそのとき、鈴木さんから突如、NGが入った。桂木さんは茫然自失。いつもは原稿に事前に目を通してもらうのだが、そのときは印刷当日になってしまった。

連絡をくれた広報担当者によれば、どこが問題点なのか具体的な指摘はなかったという。広報担当者とあれやこれやと考えた末、1つの仮説を導いた。

「実践ストーリー編」では、各優良店のオーナーが登場し、自身の経営論を語っていた。これが問題だったのではないか。セブン‐イレブンの店舗数は2万店を数え、それぞれに商圏も客層も異なるから、経営のあり方も異なる。「個店主義」は鈴木経営学の中心でもあった。したがって、各オーナーは自店の経営は語れても「セブン‐イレブンの経営学」について語ることはできない。できるのは代表である鈴木敏文しかいない。

この仮説に基づき、原稿から各オーナーが語る経営論を削り、鈴木さんの言葉に変えたところ、一発でOKが出た。

問題点を指摘しない理由

なぜ、鈴木さんはNGを出すとき問題点を指摘しないのか。それは本人に自分の頭で考えさせるためだった。問題点を指摘すれば、本人はその問題点だけを解決しようとする。それでは本人も成長せず、本質的な解決にはならない。総経理にNGを出したのも、セブン‐イレブンの経営の基本に立ち返って、自分で答えを出させるためだった。鈴木さんは常に人間の心理に目を向けていた。

自分の頭で考える。これは鈴木さんがセブン‐イレブンで働くすべての人々に徹底して求めたことだった。