国立社会保障・人口問題研究所の社会保障基礎理論研究部長を務め、各国の保険制度を研究している金子能宏さんは「社会保険料が徴収されているわけではなく、『pay roll tax』という年金の原資となる給与税の一部が回されています。市民の自由を尊重する米国では、強制加入が前提の『社会保険』という言葉を使うことに強い抵抗感があります」と語る。
その一方で問題になってきたのが、メディケアとメディケイドの対象外で、民間保険の保険料も払えない“無保険者”のケア。なんと米国の全人口のうち6人に1人が無保険者なのだ。その救済策として全国民に保険の加入を義務付ける包括的な医療保険改革「オバマケア」が動き出すことになった。
具体的には、無保険者の人たちが民間保険に入れるように、既往症による保険加入拒否などが禁止された。また、2014年1月からの個人の加入義務化に向けて、10月からはオンラインで加入できる保険市場「エクスチェンジ」が始動した。しかし、申込者が殺到してウェブサイトが上手く機能せず、当初予定していた加入者を大幅に下回る状況が続いている。
「低額の保険料の民間保険の一部はオバマケアの基準を満たさないからという理由で、契約が突然打ち切られたりして、オバマケアに対する批判の声が日増しに高まっています」と原田さんはいう。すでに企業の従業員の加入義務化は15年1月からに先送りされている。米国が国民皆保険になるまでには、まだまだ紆余曲折がありそうな気配が濃厚だ。