相続財産のデータがない場合、資産把握が非常に面倒になります。不動産については戸籍の付票などを徹底的に活用して調べなくてはなりません。戸籍の付票には、今までの住民票の移動、つまり引っ越しの記録があります。特に40代くらいのときに引っ越したことがある場合には、昔住んでいたところに不動産を持っている可能性があるため要チェックです。この付票を辿って法務局に不動産の持ち主を問い合わせると、見知らぬ街のペンペン草が生えている田んぼが実はおじいちゃんの持ちものだと判明したりします。
このチェックは意外と重要です。なぜなら、故人の土地が善意かつ無過失で占有されていた場合は10年、悪意または有過失で占有されていた場合でも20年で時効取得されて他人に奪われてしまうからです。銀行口座も遺族がしっかり把握できていない場合、今後のインフレ等を加味すると、低金利の普通預金で放置し続ければ、預金の実質的価値はどんどん低下する恐れがあります。
さらに、エンディングノートの情報は相続争いの未然防止の観点からも重要です。相続人の誰かがカードや通帳などを持っていることが判明したら、引き出されて使われてしまう前にすばやく対処しましょう。つまり、(あいつは持ち逃げする可能性があると)銀行に電話して引き出しを停止するのです。これをやらないと、兄弟などに数百万円くらい使い込まれてしまうこともあります。警察も親族間の問題だとして熱心に捜査しません。
次に生前贈与です。年間110万円まで贈与税がかかりませんから、会社を引き継ぐための事業承継制度なども含めて積極的に生前贈与は行うべきです。しかし、日本ではまだまだ徹底されていないですね。頭ではお得だとわかっていても、人間は自らの財産を手放そうとしないものです。
そこで一つアドバイスです。遺言は、書いてもらおうというよりも、相続人が公正証書遺言と必要書類を(弁護士等に頼む形で)事実上用意しておいて「おじいちゃん、一緒に公証役場に行こうよ」と勧めるのです。なお「遺言は、あとで何回でも作り直せるよ」と説得するのは、一度作った遺言は修正できないと思っている人も多いので、説得文句として効果的でしょう。