このような実務面での対応が取られることにより、インターネットの端末(パソコンなど)から、電子債権記録システムの管理データにアクセスすることが可能となり、いつでも、どこからでも、手形債権の発生や譲渡、保証などに関する現況を知ることができる。特に遠隔地間での手形の利用について、距離的・時間的な制約が克服されるメリットは大きい。通信回線を経由して情報交換することで、従来の運搬・郵送コストがなくなるからである。
もっとも、導入に際しての課題も少なくない。まず、そもそも電子記録債権法が施行されたところで、前述の電子債権記録システムが実際の運用を開始しなければ、誰も電子手形を利用できないわけだが、そのシステム導入のための初期コストは、40億~80億円にのぼるというのが経済産業省の試算だ。しかも、しばらくは移行期間として、従来の手形交換所を併存させて運営する必要があるだろう。
加えて、現時点で手形の利用が減少傾向にある中、巨額のコストを投じてまで、その電子化にこぎつける必要がどこまであるのだろうか。大企業は手形の管理コストを嫌い、銀行との取引実績を重ねるべく、口座間の送金決済を利用する形態が浸透している。中小企業においては、手形払いで支払いサイトを享受するメリットよりも、自社のイメージアップや仕入れ先からの値引きのため、現金払いに活路を見いだすケースが増えているようだ。
電子債権記録システムは、いったん手形に見切りを付けた世間の経営者を、再び振り向かせることができるだろうか。先行きを注視していきたい。
(ライヴ・アート= 図版作成)