「視野60度以内」「距離3~3.5m」に配置を変える

人は相手が視野60度以内に入っていると、会話が生まれやすくなります。一方、視野60度を超えた位置にいると、相手の表情や顔色がわかりにくいため、会話のきっかけが生まれにくくなります。さらに、その視野の外から返事をすると、相手は「ちゃんと返事をしてくれていない」「軽くあしらわれている」と感じやすいのです。

そして、それぞれが自分のことをしながらも、一緒に過ごしていると感じられ、話したいときに自然に会話できる距離は、約3~3.5mです。

これらを、「視野60度の法則」「つながれる距離の法則」と名づけています。

この2つの法則に沿って、夫婦がお互いの視野に入り、3~3.5mの距離で座れる配置に変えました。すると、変化が起きました。夫婦の会話が自然に増え、仲のよさも戻り、夫の“なわばり化”による散らかしも減りました。

安心できる居場所を取り戻したご夫婦は、「会話が増えて仲良くなりました。家族としての時間が戻ってきたんです」と話してくれました。必要だったのは、椅子ではなく“ご家族が感じたかった感情”が自然に生まれる空間だったのです。

笑顔のカップル
写真=iStock.com/seven
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最も手を入れやすく、効果が出やすい

これらに共通していたのは、環境を変えただけで人の行動が変わったことです。

行動科学では、私たちの日常行動の多くが、意志ではなく、“その場の条件”によって引き出されると考えられています。椅子の向き、人との距離、視界の情報量――こうした小さな要素が、思った以上に行動を左右するのです。

実際、声の届き方が変わるだけで衝突が減り、座る位置が変わるだけで発言が増えました。配置や距離といったごく小さな違いが、行動を引き出していたのです。

こうした環境の影響は、とくに40代、50代と年齢を重ねるにつれて強まります。仕事や家族の役割が増え、脳も心も常にフル稼働になります。さらに、性格や思考パターン、人間関係、生活習慣など、変えにくい要素も増えていきます。

そうなると、意志だけで気持ちや行動をコントロールするのが少しずつ難しくなり、環境の影響が行動に表れやすくなります。

環境は、最も手を入れやすく、効果が出やすい領域なのです。本書では、この仕組みを「環境が人を動かす3つのルート」として整理しています。